坂本鉄男 イタリア便り これぞ真の友愛精神

 「椿姫」、「リゴレット」、「アイーダ」など多数の名作オペラを書き上げたイタリアの大作曲家、ジュゼッペ・ヴェルディ(1813~1901)の名前はオペラファンならずとも知ってはいるが、彼が友愛精神の体現者だったことはあまり知られていない。
 貧しい幼少期を過ごした彼は、功成り名遂げて莫大(ばくだい)な著作権料収入が入るようになると、手始めに1888年、北イタリアの居住地の隣村に、費用を全額負担して、小さな病院を建設した。それまで約40キロ離れた地方都市の病院まで行っていた隣人たちを助けるためである。病院は今も残っている。
 次いで、89年秋にはミラノ市内に土地を購入、手持ち資金と著作権料収入を全額、投じて、老齢で恵まれない音楽家80~100人を収容できる「憩いの家」を建設、運営することを考えた。謙虚な彼は、「自分の最大のオペラ(イタリア語では作品、仕事という意味もある)」と呼んだ「憩いの家」の開館を自らの死後と定めたのである。彼の死の翌年秋に開館したこの家は今も、老音楽家の憩いの家と音楽学校生徒の宿舎として、運営されている。
 飛び抜けて恵まれた家に生まれ育ち、政治活動だけに巨額の資産を使う鳩山首相は果たして、「友愛」の本当の意味を知っているのだろうか。
坂本鉄男
1月10日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)