La terra di Saturno サトゥルヌスの国、イタリア

皆さん、こんにちは。だんだんと夜が長くなり、朝晩の冷え込みも厳しくなってきました。お元気にお過ごしですか?

さて、早いもので今年も残すところ1か月とわずか。惑星をテーマにお届けしていた本年度のお便りもあっという間に最終回となってしまいました。今回11月はイタリアと深い関係のある土星 Saturno を取り上げ、2016年度のお便りを締めくくりたいと思います。

土星は、「太陽系の宝石」とも呼ばれる美しい惑星。前回のテーマ木星と同じく、巨大ガス惑星に分類されています。土星は地球の約315倍の大きさ。自転によりつぶれた球形で、表面にはアンモニアの雲による縞模様が見えます。北極周辺には六角形の雲の波紋があり、つい最近は、探査機カッシーニの観測に基づいてその色の変化が伝えられました。

土星の姿で特徴的なのは、周りにまとっている環(リング)。主に大小さまざまな氷の粒子から構成されているこの環は、驚くほど大きく、驚くほど厚さがありません。初めて土星の環を観たのはイタリアの天文学者Galileo Galilei (ガリレオ・ガリレイ)ですが、ガリレオはそれが環であることを認識できませんでした。当時の望遠鏡の性能に限りがあり、土星の公転によって環が見えづらくなる時期が観測期間に含まれていたため、姿を現したり消したりする土星の環の正体をつかむことができなかったのです。ガリレオの謎は約半世紀後にオランダの天文学者ホイヘンスが解明し、1675年にはイタリア生まれの天文学者Giovanni Cassini (ジョヴァンニ・カッシーニ)が複数からなる土星の環の構成を発見しています。

土星の周りには環だけでなく数多くの衛星もあります。現在までに発見された数は62。土星の衛星には神話に登場するタイタン族の名前がつけられていましたが、20世紀に名前が尽きてしまい、それ以降はギリシア神話やローマ神話の巨人族の名前、イヌイットやケルト神話の神の名前など、世界各地の神話に因む名前が付けられています。土星の衛星には、タイタンやエンケラドゥスのように生物が自然発生する可能性が極めて高い環境の星があり、現在も科学者たちから熱い注目を集めています。

黄色く空に輝く土星は肉眼でも見ることができることから、古代からよく知られていた惑星の1つでした。メソポタミアやヘブライなど多くの文化で、土星に神の名が付けられました。古代ギリシアでは、太陽から遠く運航が遅い土星に年老いた神クロノス(最高神ゼウスの父)の名がつけられました。イタリア語のSaturno (土星)もその名残で、クロノスと融合した古代ローマ神話の神Saturno(サトゥルヌス)のラテン語名 Saturnus に由来しています。

イタリアは、この神 Saturno と深い絆のある土地。イタリア語で terra saturnia (神サトゥルヌスの地)というと、「イタリア」のことを指します。サトゥルヌスと同一視されたギリシア神話のクロノスは、自分の息子ゼウスにオリンポスを追われてイタリアに亡命します。クロノス、つまりサトゥルヌスが亡命後に王となって治めた地がイタリアであるというわけです。また、現在イタリアの州名である Lazio は、ラテン語で「隠れる」を意味する動詞 lateo が語源。クロノスが逃げてきた場所であることからついた名前です。

神サトゥルヌスの語源は「種をまく」という意味の動詞の過去分詞 satus と言われ、その名の通りサトゥルヌスはもともと農耕を司る神でした。しかし、その一方で不吉な神としての顔もあったため、土星は人間にネガティブな影響を及ぼす「夜の太陽」とも考えられていました。中世の医学や占星術では、土星は人々を瞑想や観想に没頭させ、憂うつな気分や狂気に向かわせる影響があるとしていました。イタリア語の形容詞 saturnino が、「土星の、サトゥルヌスの」という意味のほかに「陰気な」という意味を持つのは、そのためです。

農耕神サトゥルヌスを祀る Saturnalia (サトゥルナーリア祭)は、12月17日から数日続いた古代ローマの祭典。カーニバルのような社会的役割の入れ替え、仮装、贈り物などをして人々は盛大に祝い、親戚や友人と囲む豪華な宴はどんちゃん騒ぎ、鯨飲馬食の「狂宴」だったと言われています。

もうすぐ12月。忘年会シーズンも始まり、忙しない年の瀬が近づいてきます。 Saturnalia で胃腸に負担をかけたり、 Saturno の陰鬱な影響を受けることなく、皆さんの大切な方と楽しく幸せな年末をお迎えください!

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲