シエナ遊々閑々
「ミネルヴァのフクロウは黄昏に羽ばたく La civetta di Minerva vola al crepuscolo」

こんにちは。みなさんお元気ですか?スポーツをするにも、勉強をするにも空気が気持ちよく、ごはんのおいしい季節になりました。イタリアでは新学期が始まり、はつらつとした学生が町を行き交っています。

さて、今年はシエナの「コントラーダ」にちなんで、動物とイタリア語をテーマにお便りしています。9月は文化の秋にふさわしく、知恵のシンボルであるフクロウのコントラーダをピックアップしたいと思います。

チヴェッタContrada Priora della Civetta

シエナの旧市街は中心にカンポ広場を据え、コントラーダと呼ばれる17の地区に分けられています。今回とりあげるのは、広場のすぐ脇、町の中央に位置するコントラーダ「 Contrada Priora della Civetta (コントラーダ・プリオーラ・デッラ・チヴェッタ)」です。

チヴェッタのコントラーダは、所属しているメンバーの人数も、テリトリーの広さもシエナで最小。けれど、パリオ祭ではコンスタントに勝利を手にしたり、また毎年秋には初物ワインのイベントを開いたりと活発に活動しています。

イタリア語の「 Civetta (チヴェッタ)」とはフクロウのことで、このコントラーダは名前に違わずフクロウをシンボルに掲げています。赤と黒を基調とした旗には、王冠をかぶったフクロウが鎮座しています。

イタリア語とフクロウ

イタリア語では、 Civetta (チヴェッタ)と呼ばれるフクロウ。その語源は、鳴き声を擬したオノマトペアと言われています。フクロウの習性や姿かたちから、イタリアには「 civetta 」ということばを用いたいろいろな表現があります。

例えば、フクロウが獲物をおびき寄せる様から、 男性に色目をつかったり、誰かれかまわず媚びを売る女性のことを「 civetta 」と呼ぶことがあります。「 Quella è una civetta (あの女、男に媚びまくりよ)!」といった感じで使われます。似たような表現で「 fare la civetta 」や「 civettare 」などもあり、こちらは「媚びを売る」という意味があります。

また、「 occhio di civetta (フクロウの目)」という言うと、そのきれいな黄色い目から「金貨」のことや「プリムローズの花」を指したりします。

ミネルヴァのフクロウ

さて、フクロウは西洋では古くから哲学や知恵を象徴する動物でした。ギリシア神話の女神アテネやローマ神話の知の女神ミネルヴァのシンボルでもあり、現代ギリシアの1ユーロ硬貨には古代ギリシアのコインに刻印されていたフクロウが描かれています。

フクロウが知のシンボルとなった由来は、目とくちばしがギリシア文字の φ のような形をしているからと言われています。この文字は哲学や黄金律のシンボルであり、知の探究や知の調和を表していました。

18世紀には、ドイツの哲人ヘーゲルが「ミネルヴァのフクロウは黄昏に羽ばたく」ということばを残しています。この文章にはいろいろな解釈がありますが、その中の1つは、「知を象徴するミネルヴァのフクロウ、つまり人間の知恵は、昼ではなく夜に活動するフクロウのように、最盛期を過ぎて歳を重ねてから獲得できるものである」と説明しています。

これからどんどん日が短くなり、夜の長い季節に入ります。フクロウにちなんで夜は本を読んだり、音楽を聴いたりと、秋はいつも以上に文化に親しむ時間ができそうですね。

ダンテ・アリギエーリ シエナ
ヴァンジンネケン玲

シエナ遊々閑々「カメのようにゆったりと (Lento come una tartaruga)」

こんにちは。猛暑に豪雨にと厳しいお天気ですが、みなさん元気にお過ごしですか?
いよいよ梅雨も明け、太陽が眩しい夏本番となりました。イタリアはとても暑い夏を迎え、プールや海辺はたくさんの人で溢れています。

さて、2017年度は、シエナの「コントラーダ」を軸として、動物とイタリア語をテーマにしたお便りをしています。今回のお便りはタルトゥーカ( tartuca )のコントラーダをピックアップして、カメにまつわるお話しをお届けします。

タルトゥーカ Contrada della Tartuca

コントラーダと呼ばれる17の地区に分かれるシエナの旧市街。タルトゥーカのコントラーダ( Contrada della Tartuca )は、その南にテリトリーを構えています。ちなみに、私たちの学校ダンテの校舎があるのも、このタルトゥーカのエリアです。

コントラーダの名前「 tartuca (タルトゥーカ)」は、イタリア語でウミガメやカメを指すtartaruga(タルタルーガ) の地方ことば。タルトゥーカはその名の通り「カメ」のコントラーダで、青と黄色地の旗にはリクガメが描かれています。コントラーダが掲げるカメのシンボルは「 saldezza (堅固、堅牢)」。力に屈せぬ強さを武器としています。

実は、タルトゥーカは前回のテーマとなったカタツムリのコントラーダの宿敵。その因縁は17世紀に遡るという文献もあり、何百年にもわたる激しいライバル関係は現在もなお続いています。

イタリア語で「カメ」は何と言う?

さて、コントラーダの旗にはリクガメが描かれていますが、厳密にイタリア語で「リクガメ」にあたる単語は tartuca の標準語版にあたる tartaruga ではありません。本来tartaruga は「ウミガメ」を指す単語で、「リクガメ」を指すのは別の単語 testuggine となります。

つまり、 現代イタリア語で2種類のカメをきっちりと区別して言いたい場合は、testuggine (リクガメ)と tartaruga (ウミガメ)と使い分ける必要があります。しかし、日常的な会話でただ「カメ」と言いたい場合は、どちらの単語を使っても総称的な「カメ」を指すことができます。

また、それぞれの単語の起源はまったく異なっています。 testuggine は「貝殻」や「亀の甲羅」を意味するラテン語の testa から派生したことば。一方の tartaruga はちょっぴり怖い語源で、もともとはギリシア語で「地獄の住人」という意味をもっていた忌まわしい精霊の名前でした。

まるでカメのよう!

カメはそのゆったりとした動きゆえに、古くから「鈍重」や「遅緩」といったのろさのシンボルとされてきました。現代のイタリア語でも、動作がゆっくりとした人や動物、スピードの出ない乗り物のことを tartaruga と表現します。例えば、「 Questo treno è una tartaruga! (この電車はなんてのろいんだ!)」といった具合です。

19世紀のイタリアの文人ジャコモ・レオパルディ( Giacomo Leopardi )は、こんな文章を残しています。「とても長い時間をかけて物事をこなすカメは、とても長い時間を生きる。こんな風に、すべてのことは自然の中でうまくバランスが取れている。カメはのろまだと言えるかもしれないが、カメはのろさを自らの本質として備えているのだから、カメは絶対的な意味でのろいわけではないのだ。私たちは、そこから多くを学び取ることができる*」。


私たちも一人ひとりも、カメのようにそれぞれ自分にちょうどいい時間の流れがあります。効率化や生産性に重点がおかれる現代では、毎日駆け足、急ぎ足で過ごさずをえず、気づけば心や体が悲鳴を上げていたということも少なくありません。

「 Chi va piano va sano e va lontano (ゆっくり行けば、元気に遠くまでたどり着ける)」と諺にもあるように、カメのようにのんびりでも自分のペースで着実に進んでいくと、きっと素敵な景色が待っているはずです。自分のペース調整をするためにも、大きな深呼吸のできるすてきな夏休みをお迎えください!

ダンテ・アリギエーリ シエナ
ヴァンジンネケン玲

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*原文:「 La tartaruga lunghissima nelle sue operazioni ha lunghissima vita. Così tutto è proporzionato nella natura; e la pigrizia della tartaruga, di cui si potrebbe accusar la natura, non è veramente pigrizia assoluta, cioè considerata nella tartaruga, ma rispettiva. Da ciò possiamo cavare molte considerazioni 」。Giacomo Leopardi, Pensieri di varia filosofia e di bella letteratura, a c. di Giosué Carducci, Firenze, Successori le Monnier, 1898, p. 124より抜粋。和訳はヴァンジンネケンによるもの。

シエナ遊々閑々「カタツムリの旅立つ5月 Di maggio lascia la chiocciola al suo viaggio」

こんにちは。緑鮮やかな気持ちのいい季節、みなさん元気にお過ごしですか?

さて、今回はシエナのコントラーダの中から Chiocciola (キオッチョラ)を選び、カタツムリをテーマにお便りしたいと思います。

キオッチョラ Contrada della Chiocciola

シエナの町は、コントラーダと呼ばれる17つの地区に分かれています。その中で町の最南端に位置するのが Chiocciola のコントラーダ。

かわいらしいカタツムリがシンボルのコントラーダで、赤と黄色のベースに青いラインが入ったひときわ鮮やかな旗が目印になっています。旗の一画にある紋章には、カタツムリのモチーフとともに、19世紀のイタリア王ウンベルト1世と王妃マルゲリータのイニシャル( U と M )が交互に描かれています。

モットーは「 Con lento passo e grave, nel Campo a trionfar Chiocciola scende (ゆったりと、ずっしりと、キオッチョラが勝利を手にすべくカンポ広場に降りたつ)」と、威風堂々。馬のレースでコントラーダが競い合うパリオ祭の勝利を謳っています。

イタリア語の「かたつむり」

さて、 chiocciola ということばは、現代イタリア語でカタツムリのこと。イタリアに約250種類いると言われるカタツムリの総称です。語源はギリシア語の κοχλίας 。ラテン語の cochlea を経て、イタリア語の chiocciola となりました。

イタリアにはもう1つ「カタツムリ」を意味する単語 lumaca (ルマーカ)があります。こちらはカタツムリだけでなくナメクジも含めた軟体動物腹足綱の総称。殻をもったカタツムリを lumaca と呼ぶ場合、 lumaca al sugo といったように特に食用のエスカルゴを指すことが多いです。

エスカルゴの旬は秋から冬にかけて。5月ごろはカタツムリの産卵時期となるため、「 Di maggio lascia la chiocciola al suo viaggio (5月はカタツムリを旅立たせる)」ということわざのように、カタツムリは食べない方がいいシーズンとされています。

デジタル時代のカタツムリ

ITの発展とともに、 chiocciola ということばの使用頻度はぐっと増えました。というのも、メールアドレスなどで使う@マークをイタリア語では chiocciolaと呼ぶからです。縮小辞をつけて、「小さいカタツムリ」という意味の chiocciolina (キオッチョリーナ)と呼ぶこともあります。

例えば info@dantealighieri.com というメールアドレスは、「イ、エンネ、エッフェ、オ、キオッチョラ(またはキオッチョリーナ)、ディ、ア、エンネ……」といった具合に読みます。その由来は、スバリ、@の形がカタツムリに似ていたため。

ちなみにカタツムリの形状を思わせることから、イタリア語ではらせん階段も scala a chiocciola (スカーラ・ア・キオッチョラ)と呼ばれています。

日本では梅雨の季節が近づいてきました。「 La chiocciola è la messaggera della pioggia (カタツムリは雨の使者)」ということわざもありますが5月のお便りで雨を呼んでしまわないことを祈りつつ、どうぞみなさん初夏の太陽をお楽しみになりますように。

ダンテ・アリギエーリ シエナ
ヴァンジンネケン玲

シエナ遊々閑々 「鳥肌が立つのは寒いから? Avete la pelle d’oca pre il freddo?」

2017-01-siena03こんにちは。日本でもイタリアでも厳しい寒さが続いていますが、みなさんお元気ですか?

まだまだ冬真っ盛りですが、少しずつ日が長くなってきたのはささやかながら嬉しいですね。

さて、2017年度は、シエナの「コントラーダ」からインスピレーションを受けて、動物とイタリア語をテーマにしたお便りをお送りしていきたいと思います。本年最初のお便りは、酉年にちなんでオーカ( Oca )のコントラーダからガチョウにまつわるお話しです。

シエナのコントラーダとは?

2017-01-siena04コントラーダ contrada とは、シエナの町にある17つの区域のこと。これらのコントラーダは、パリオ祭の馬のレースで熾烈に競い合うことで有名です。

もともと、シエナの旧市街は3つの丘に沿うように発展してきました。それぞれの丘をもとに、町は「イ・テルツィ( i terzi )」と呼ばれる3つの区画( Terzo di Città 、 Terzo di San Martino 、 Terzo di Camollia )に分かれています。この3区画はさらに細分化され、17の区域に分かれます。この17つの区域こそが、ほかならぬコントラーダなのです。

各コントラーダにはシンボルとなる生物、モノ、現象があり、その名前がコントラーダ自身の名前になっています。長い歴史の中でさまざまな変遷を遂げ、現在のシエナには以下17のコントラーダが存在しています。

Aquila (ワシ)、Bruco (イモムシ)、Chiocciola (カタツムリ)、Civetta (フクロウ)、Drago (竜)、Giraffa (キリン)、Istrice (ヤマアラシ)、Leocorno (ユニコーン)、Lupa (雌オオカミ)、Nicchio (貝)、Oca (ガチョウ)、Onda (波)、Pantera (ヒョウ)、Selva (森)、Tartuca (カメ)、Torre (塔)、Valdimontone (雄羊)

大雑把な言い方をするとコントラーダはいわゆる「町内会」に似ていますが、各コントラーダはそれぞれ守護聖人を祀り、集会場、博物館、教会などを保有しています。その機能はシエナの人々の生活に深く大きな影響を与えています。

オーカ Nobile contrada dell’Oca

2017-01-siena01このようなコントラーダの中で、パリオ祭優勝の最多記録を持つのが「オーカ( Nobile contrada dell’Oca )」。白いガチョウを中央に据えた緑、白、赤の旗がトレードマークです。

コントラーダのシンボルである oca (ガチョウ)は、頭に王冠を戴き、首に水色のリボンでサヴォイア家の十字をかけています。

モットーは「 Clangit ad arma 」。「武器を持て、戦闘態勢につけ」といった意味で、「カンピドリオのガチョウ」というローマの古い伝承に由来しています。

古代ローマのエピソード「カンピドリオのガチョウ」

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紀元前4世紀末、ローマはガリア人に占領されました。戦いを続けたローマ人は、最後の砦となったカンピドリオの丘に籠城します。カンピドリオの食料は底をつきはじめましたが、人々は女神ユノーの聖獣であったガチョウだけは食べずにいました。

そして、ついにガリア人がカンピドリオに攻め入ってくるという瞬間、1羽のガチョウが突如けたたましい鳴き声をあげます。

それに目を覚ました元執政官マルクス・マンリウスは現場に急行し、仲間とともにガリア人の侵入を防ぐことができたのです。

イタリア語の Oca ということば

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さて、現代イタリア語の oca という言葉は、厳密には雁や鴨などカモ科の鳥の総称ですが、普段の会話ではガチョウのことを指します。

その語源はラテン語。「鳥」という意味の名詞 avis に縮小辞が付いて、 avica (小さい鳥)となり、さらに auca の形を経て、イタリア語の oca となりました。

ラテン語には、「ガチョウ」を意味するもっと古いことば anser がありました。こちらはインド・ヨーロッパ祖語の*hanserから派生していて、例えば英語のgoose も同じ語源に辿りつきます。現在のイタリア語では、 anserino という形容詞(医学用語)などにその形をとどめています。

また、イタリア語にはもう1つ「若いガチョウ」を意味する名詞 papero/ papera があります。ガチョウの鳴き声に由来する擬音語から生まれた名詞で、 縮小辞をつけて paperino とすると「小さなガチョウ」となり、最初の p を大文字にして Paperino (パペリーノ)と書くとディズニー・キャラクター「ドナルド・ダック」のイタリア名になります。

ガチョウ oca を用いた表現いろいろ

ガチョウは昔から人間に馴染みのある鳥なので、イタリア語には oca ということばを使った表現が色々あります。例えば、「 pelle d’oca 」と言えば「鳥肌」のこと(ちなみに、専門用語では先ほどのanserino という形容詞が用いられ「 cute anserina 」となります)。「 Quella storia mi fa venire la pelle d’oca! (あの話しには身の毛がよだつ!)」という具合に、寒さだけでなく恐怖からくる鳥肌のことも指します。

また、教養のかけらもないような表面的で傲慢な人(特に女性)を oca と表現したりします。「 Capisci meno di un’oca (君はガチョウ以下の理解力だな!)」とか、「 Che oca quella donna! (なんて浅はかな女なの!)」という感じで使われます。

ガチョウのうるさい声から「 gridare come un’oca (ガチョウのようにがなり立てる)」という表現もあります。さらにその様子を女性のおしゃべりになぞらえて、「 Due donne e un’oca fanno un mercato (女2人とガチョウがそろえば市場の喧騒)」といった諺もあります。中世のラテン語には、すでにこれに似た諺があったというのですから驚きです。

酉年は動きの大きい変化の年と言われます。鳥肌の立つようなポピュリズムの台頭が著しい昨今ですが、ガチョウのがなり声のように私たちを取り囲む post-verità (ポスト・トゥルース)に惑わされることなく、私たち一人ひとりが健全に前へ進める1年となりますように!

ダンテ・アリギエーリ シエナ
ヴァンジンネケン玲

La terra di Saturno サトゥルヌスの国、イタリア

2016-11-01-siena皆さん、こんにちは。だんだんと夜が長くなり、朝晩の冷え込みも厳しくなってきました。お元気にお過ごしですか?

さて、早いもので今年も残すところ1か月とわずか。惑星をテーマにお届けしていた本年度のお便りもあっという間に最終回となってしまいました。今回11月はイタリアと深い関係のある土星 Saturno を取り上げ、2016年度のお便りを締めくくりたいと思います。

土星は、「太陽系の宝石」とも呼ばれる美しい惑星。前回のテーマ木星と同じく、巨大ガス惑星に分類されています。土星は地球の約315倍の大きさ。自転によりつぶれた球形で、表面にはアンモニアの雲による縞模様が見えます。北極周辺には六角形の雲の波紋があり、つい最近は、探査機カッシーニの観測に基づいてその色の変化が伝えられました。

2016-11-02-siena土星の姿で特徴的なのは、周りにまとっている環(リング)。主に大小さまざまな氷の粒子から構成されているこの環は、驚くほど大きく、驚くほど厚さがありません。初めて土星の環を観たのはイタリアの天文学者Galileo Galilei (ガリレオ・ガリレイ)ですが、ガリレオはそれが環であることを認識できませんでした。当時の望遠鏡の性能に限りがあり、土星の公転によって環が見えづらくなる時期が観測期間に含まれていたため、姿を現したり消したりする土星の環の正体をつかむことができなかったのです。ガリレオの謎は約半世紀後にオランダの天文学者ホイヘンスが解明し、1675年にはイタリア生まれの天文学者Giovanni Cassini (ジョヴァンニ・カッシーニ)が複数からなる土星の環の構成を発見しています。

2016-11-03-siena土星の周りには環だけでなく数多くの衛星もあります。現在までに発見された数は62。土星の衛星には神話に登場するタイタン族の名前がつけられていましたが、20世紀に名前が尽きてしまい、それ以降はギリシア神話やローマ神話の巨人族の名前、イヌイットやケルト神話の神の名前など、世界各地の神話に因む名前が付けられています。土星の衛星には、タイタンやエンケラドゥスのように生物が自然発生する可能性が極めて高い環境の星があり、現在も科学者たちから熱い注目を集めています。

黄色く空に輝く土星は肉眼でも見ることができることから、古代からよく知られていた惑星の1つでした。メソポタミアやヘブライなど多くの文化で、土星に神の名が付けられました。古代ギリシアでは、太陽から遠く運航が遅い土星に年老いた神クロノス(最高神ゼウスの父)の名がつけられました。イタリア語のSaturno (土星)もその名残で、クロノスと融合した古代ローマ神話の神Saturno(サトゥルヌス)のラテン語名 Saturnus に由来しています。

2016-11-04-sienaイタリアは、この神 Saturno と深い絆のある土地。イタリア語で terra saturnia (神サトゥルヌスの地)というと、「イタリア」のことを指します。サトゥルヌスと同一視されたギリシア神話のクロノスは、自分の息子ゼウスにオリンポスを追われてイタリアに亡命します。クロノス、つまりサトゥルヌスが亡命後に王となって治めた地がイタリアであるというわけです。また、現在イタリアの州名である Lazio は、ラテン語で「隠れる」を意味する動詞 lateo が語源。クロノスが逃げてきた場所であることからついた名前です。

神サトゥルヌスの語源は「種をまく」という意味の動詞の過去分詞 satus と言われ、その名の通りサトゥルヌスはもともと農耕を司る神でした。しかし、その一方で不吉な神としての顔もあったため、土星は人間にネガティブな影響を及ぼす「夜の太陽」とも考えられていました。中世の医学や占星術では、土星は人々を瞑想や観想に没頭させ、憂うつな気分や狂気に向かわせる影響があるとしていました。イタリア語の形容詞 saturnino が、「土星の、サトゥルヌスの」という意味のほかに「陰気な」という意味を持つのは、そのためです。

農耕神サトゥルヌスを祀る Saturnalia (サトゥルナーリア祭)は、12月17日から数日続いた古代ローマの祭典。カーニバルのような社会的役割の入れ替え、仮装、贈り物などをして人々は盛大に祝い、親戚や友人と囲む豪華な宴はどんちゃん騒ぎ、鯨飲馬食の「狂宴」だったと言われています。

2016-11-05-sienaもうすぐ12月。忘年会シーズンも始まり、忙しない年の瀬が近づいてきます。 Saturnalia で胃腸に負担をかけたり、 Saturno の陰鬱な影響を受けることなく、皆さんの大切な方と楽しく幸せな年末をお迎えください!

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲

L’avvenire giace sulle ginocchia di Giove 未来は神のみぞ知る

こんにちは。皆さん、お元気ですか?朝晩はだいぶ涼しくなり、暦の上でもあっという間に秋になりました。イタリアでは9月の中旬からいよいよ新学期が始まりました。今月はお便りのテーマも心機一転して、今まで登場した3つの惑星とは違うタイプの惑星、木星Gioveをテーマにお送りしたいと思います。

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太陽系の惑星にはいくつかの分類方法がありますが、今までに取り上げた水星、金星、火星は「地球型惑星」と分けることができます。岩石や金属を主成分とする比較的小さな惑星で、その名の通り地球もこのタイプの惑星です。

一方、今回のテーマの木星はガスを主成分とする巨大な惑星で、土星とともに「巨大ガス惑星」に分類されます。ついでながら、巨大で主成分がメタンを含む氷や水である天王星と海王星は、「巨大個体惑星」と分類されます。
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木星は、太陽系の巨大惑星の中でも一番大きな惑星です。直径は地球の約11倍、大きさは地球約1300個分にもなりますが、主に水素(約90%)とヘリウムの軽い気体でできているため重さはそれほどありません。約10時間とものすごいスピードで自転しているため、時速650kmもの風が吹き、遠心力で少しつぶれたような形をしています。

木星の表面には太い縞模様と、大赤斑と呼ばれる渦巻き模様のような点がありますが、これを初めて発見したのはイタリア生まれの天文学者Giovanni Cassini(ジョヴァンニ・カッシーニ)で、カッシーニは1660年に望遠鏡で木星を観察したと言われています。

giove-1cosimoイタリアの天文学者と言えば、お馴染みのGalileo Galilei(ガリレオ・ガリレイ)。木星には60を超える衛星がありますが、ガリレオは大型衛星を4つ発見しています。

1610年に発表した『Sideres Nunncius(星界の報告)』の中で、トスカーナ大公Cosimo II de’ Medici(コジモ2世・ディ・メディチ)に敬意を表してこれら4つの衛星を「Cosmica Sidera(コジモの星々)」と名づけました。

その後大公の意向で「Medicea Sidera(メディチ家の星々)」と改名された4つの衛星は、現在「satelliti medicei(メディチ衛星)」、「satelliti galileiani(ガリレオ衛星)」と呼ばれています。

ガリレオはそれぞれの衛星に名をつけなかったため、1614年にドイツの天文学者シモン・マリウスが命名したIo(イオ)、Europa(エウロパ)、Ganimede(ガニメデ)、Callisto(カリスト)が現在の呼称となりました。ちなみに、ガリレオにとって木星の衛星発見が地動説を支持する根拠の一つとなったことは言うまでもありません。

giove-6iuppiterさて、現代イタリア語では木星をGioveと呼びます。太陽系最大の惑星には、ローマ神話の偉大な天の神Iuppiter(ユピテル)の名がつけられています。

イタリア語のGioveは、ラテン語Iuppiterの対格ioveの形から派生したため、形が大きく異なっています。ローマ神話のユピテルは、ギリシア神話のZeus(ゼウス)に当たり、どちらも悠久の昔に共通の語源を持っています。その語源は、古代インドの天空神Dyaus(ディヤウス)や北欧神話の軍神Tyr(テュール)にも共通する「*Dyēus(光り輝く天の神)」というインド=ヨーロッパ祖語の言葉です。

それと大きく異なる形をもつIuppiterという単語は、神に呼びかけるときの呼格「*Dyēu-pəter (父なる神よ)」から派生しました。

2016年7月に木星探査機ジュノーは約5年に渡る航海を終えて木星に到着しました。来たる10月からは本格的な観測を開始し、太陽系形成に深くかかわったと考えられる木星の誕生とその歴史を解明すべく、多くの期待が寄せられています。ジュノーの名は英語でJupiter Near-Polar Orbiterの略ですが、ローマ神話のユピテルの妻ユーノー(英語名Juno)の名前ともかけられています。

木星は、夜空に明るく輝くことから「夜半の明星」とも呼ばれ、地球型惑星と同様に古くから人類に親しまれてきました。イタリア語の形容詞gioviale(にこやかな、感じのいい)は、「木星の影響で人々が快活で幸せになる」と信じられていた古代の迷信からできた単語と言われています。
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詩人Dante Alighieri(ダンテ・アリギエーリ)は『Convivio(饗宴)』で木星を芸術、幾何学と結び付け、また、熱い火星と冷たい土星の間にあることから「stella di temperata complessione(慎みのある星)」と呼びました。

『Divina Commedia(神曲)』では天国界の「第六天」を木星天とし、正義の美徳を象徴する場所としました。木星天では、正しい行いをした賢者たちの魂が歌いながら空を舞い、光り輝く文字で「Diligite iustitiam qui iudicatis terram (Amate la giustizia voi che giudicate il mondo、 世界を裁くものたちよ、正義を愛せよ)」と天空に綴ります。

不穏なニュースの絶えない昨今、世界中で先の見えない未来に不安が広がっています。イタリアには「L’avvenire giace sulle ginocchia di Giove(未来は神のみぞ知る)」ということわざがありますが、人事を尽くして天命を待つ、私たち一人ひとりが毎日できる限りのことをして、心穏やかに過ごせる平和な未来を願いたいものです。

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲

Venere, pianeta d’amore 愛の惑星、金星

暑中お見舞い申し上げます!皆さん、いかがお過ごしでしょうか。さて、シエナでは恒例のパリオ祭のシーズンとなり、暑い、そして熱い夏に突入しました。ホットな7月のお便りは、太陽系で一番熱い惑星、金星Venereをテーマにお送りしたいと思います。

2016-07-siena01金星は太陽系で最も熱く、そして最も明るく輝く惑星です。地球から観察できる一番明るい恒星はシリウスですが、金星は最大でその12倍にあたる明るさで瞬き、太陽や月のように昼間も肉眼で観察できることがあります。

天空できらきらと光る金星は古代から人類を魅了し、東西の文化に多大な影響を与えてきました。例えば、楔形文字で書かれたバビロニアの古い文献には金星の太陽面通過の観察記録が残され、金星はメソポタミア神話の愛と戦の女神イシュタルの名前で呼ばれていました。また、マヤのように金星の軌道計算を組み込んだ複雑な暦を発達させた文明もありました。

日本語では金星を「明けの明星、宵の明星」とも表現しますが、古くから「あかほし、ゆふつづ」と二つの名前でも呼んでいます。世界には、夜明けと夕暮れの金星を2つの異なる星であると考えていた文明がたくさんありました。

古代中国では明けの明星を啓明、宵の明星を長庚と呼び分けたり、ピタゴラス以前のギリシアではポースポロス(Phosphoros)、ヘオースポロス(Heosphoros)と呼んだりしていました。古代ローマではギリシア語からそれぞれLucifer、Hesperusとラテン語に訳され、のちにイタリア語で明星を指す文学用語Lucifero、Esperoとなっています。
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現代イタリア語で金星はVenereです。古代ローマの愛と美の女神ヴィーナスVenusに由来し、空に光り輝く端麗な姿からその名がつけられたと言われています。女性のシンボルマークとしても使われている「♀」は、もともと天文学で使われる金星のシンボルで、ヴィーナスの手鏡が基になっています。

優美に輝く金星は、大きさや重さが地球と似ていることから地球の双星とも呼ばれる惑星です。しかしその環境は地球とはまったく異なり、現在も観測が困難とされている惑星の一つです。

金星は大気圧がとても高く、濃硫酸の雲で覆われています。大気は約96%が二酸化炭素、3.5%ほどが窒素で構成され、二酸化炭素による温室効果で地表の平均温度は約470℃にも上ります。

自転のスピードは地球の243日にあたり、公転のスピード(224.7日)より遅いため、金星の1日は1年よりも長いことになります。また、太陽系で唯一逆の方向に自転している惑星なので、金星では太陽が西の空に昇り、東に沈みます。
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さて、望遠鏡を使って最初に金星を観察したのは、イタリアが誇る天文学の父ガリレオ・ガリレイでした。1610年末にケプラーへ宛てた書簡には、金星が「 va mutando le figure nell’istesso modo che fa la Luna… (月と同じようにその姿を変えている)」と記され、ガリレオは金星の満ち欠けを世界で最初に観察したとされています。

そして、金星の大きさが変化することから地球と金星の距離は一定でないとし、地球と太陽の間に位置する金星は太陽の周りを動いていると唱えました。さまざまな天体の観測を通して地動説に言及したガリレオは、当時の教会勢力から異端とみなされて宗教裁判にかけられています。宇宙の真実を科学的に探求するガリレオのひたむきな情熱は、まさに星々の輝く天空のように壮大なロマンでした。

今月はロマンチックな夜空のお祭り、七夕の月。織姫様や彦星様も、愛の惑星Venereの輝きを眺めながら夜空で楽しく語らったのかもしれません。梅雨も明けぬ暑いあつい夏ですが、雲のない夜は星空を眺めながら愛する人と夕涼み、という粋な暑気払いはいかがでしょうか。

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲

Mercurio, figlio di Maia (水星の母は5月の女神)

2016-05-paesaggioこんにちは。爽やかな緑の季節、いかがお過ごしですか?ゴールデンウィークで心身ともにリフレッシュなさったでしょうか?新緑まぶしい5月にちなみ、今回のお便りは水星Mercurioをテーマにお送りしたいと思います。

イタリア語に親しい皆さんがご存知の通り、現代イタリア語では5月をmaggioと呼びます。その語源は、古代ローマ神話の春と豊穣の女神マイアMaiaに遡ります。メーデーのもとになった5月1日は女神Maiaの祭りに由来し、その際に豚を生贄としてささげていたことからイタリア語のmaiale(豚)も女神の名から派生したのではないかと言われています。そして、女神Maiaは水星を司る神メルクリウスMercurioの母親。そのため、詩人ダンテ・アリギエーリは水星をMaiaの別名でも詠っていました。
2016-05-Carta Mercurio
水星は、現代イタリアではMercurioと呼ばれています。水星は古くから人類に馴染みのある星で紀元前3000年ごろには発見されており、古代ギリシアでは水星が太陽の周りを早く回ることから足の速い神ヘルメスの名がつけられました。ギリシア神話のヘルメスがローマ神話のメルクリウスに当たるように、水星はラテン語でMercuriusとなり、イタリア語でMercurioとなりました。ラテン語のMercuriusは商人を意味するmerxやmercatorから派生したとされ、色々な役割を担う神メルクリウスは、商売、交換、泥棒、雄弁などをつかさどる神であり、また神々の使者とされていました。多くの彫刻や絵画では、羽の生えたサンダルや帽子を身に着け、使者の杖を持った姿をしています。また、イタリア語で水曜日を意味するmercoledìは、ラテン語のMercŭrī dies(メルクリウスの日)から生まれています。
2016-05-Giuseppe Colombo
さて、水星は太陽系で最も小さく、最も太陽に近い惑星です。水や空気はほとんどありません。ゆっくりと自転していることもあり、地表の温度は激しく上下します。日の当たる昼間は摂氏400度以上になり、夜は-160度まで下がると言われています。イタリアの天文学者Giuseppe Colombo(1920-1984)が発見した水星の公転と自転の関係はとても興味深く、それをもとに計算すると、夜明けから次の夜明けまでにあたる水星の1日は、太陽の周りを一周する水星の1年の2倍の時間がかかります。つまり、水星の1日を過ごすと2年が経過していることになるのです。

2016-05-pianeta mercurioまた、水星の表面には、彗星や隕石が衝突を繰り返したため多くのクレーターがあり、探査機「マリナー10号」が1970年代に撮影した姿は月にそっくりです。水星はいまだに多くの謎に包まれているため、来年打ち上げ予定の日欧共同水星探査ミッションには大きな期待が寄せられています。2017年1月に打ち上げ、2024年から約2年にわたって観測を行う予定とされているこのミッションは、先述の科学者Giuseppe Colomboの愛称にちなみ「BepiColombo」と命名されています。

イタリア語の単語mercurioには、水星や神メルクリウスのほかに水銀という意味もあります。語源には諸説あり、錬金術で水星が金属をつかさどることにちなんだ、神々の間を行き来する使者メルクリウスと水銀の滑らかな動きが結び付けられた、などと考えられています。水銀はargento vivoとも呼ばれ、「avere l’argento vivo addosso」という表現で使うと、エネルギー溢れる子供のように「じっとしていられない、いつも動き回っている」状態を表します。2016-05-bambina

私たちも水銀のように走り回る子供を真似て元気に動いたら、五月病もなんのその、憂うつな気分もどこかに飛んでいってしまうかもしれませんね。どうぞ素敵な初夏をお迎えください。

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲

Marzo pazzarello guarda il sole e prendi l’ombrello(気まぐれ三月、お日さまを見て傘を出す)

2016-03-siena01こんにちは。皆さん元気にお過ごしですか?少しずつ春めいてきた今月は、桃の節句、春分、復活祭Pasquaと、季節のイベントが盛りだくさんですね。本年度は太陽系の惑星をキーワードにしたブログをお届けしていますが、第2回目は3月の神様にちなんで火星Marteをトピックにお便りします。

2016-03-siena02火星は、裸眼で見ることができる5つの惑星の一つとして古代から人類に親しまれてきました。太陽系の惑星の中では2番目に小さく、地球の半分程度の直径の星です。酸化鉄を含む土壌のために赤褐色の表面をしています。砂漠のような風景や四季があることなど、地球と類似点の多い火星には、過去に水や厚い大気があったと言われています。

現在の火星は人間の住める環境ではないものの、その環境を地球化する計画もあり、小説や映画に出てくるような火星への移住もそう遠くない未来に実現するのかもしれません。

火星の研究には、多くのイタリア人が貢献してきました。17世紀のガリレオGalileo Galileiは、初めて望遠鏡を使って火星を観察した研究者の一人です。また、ジェノヴァ共和国出身のカッシーニGiovanni D. Cassiniは、宇宙探検前の火星研究の第一人者です。19世紀後半には、スキアパレッリGiovanni V. Schiaparelliが火星表面の緻密な地図を作りました。

2016-03-siena03 2016-03-siena04 2016-03-siena05

さて、日本語の「火星」という名は、古代中国の五行説に由来しています。五行の哲理では万物の元素を木、火、土、金、水とし、古くから知られていた5つの惑星もそれぞれの特徴にちなんで各元素が割り当てられました。火星はその赤い色から火の元素に属する星とされ、「火星」と呼ばれるようになりました。また、古代中国では火星を災いの前兆の星とみなし、「螢惑」の別名で呼ぶこともありました。

2016-03-siena06一方、現代イタリア語では火星は「Marte」と呼ばれています。惑星Marteは古代イタリアとローマ神話の軍神マルス(Marte)の星とされていたことから、その名がつけられました。もともとの名前の由来は、バビロニアの天文学者たちが、火、破壊、戦争の神である「Nergal」の名で火星を呼んだことに遡ります。

その後、ギリシア神話の神アレスとNergalが同一視され、火星はギリシアで「Aeros aster(アレスの星)」と呼ばれるようになります。(火星には小さな衛星が2つあり、アレスの子供フォボスFobosとダイモスDeimosの名前がつけられています。)続いて軍神マルスとアレスが同一視され、火星はローマで「Stella Martis」と呼ばれ、さらにシンプル化してMarsとなり、イタリア語の火星「Marte」となりました。

軍神マルスは古代イタリアやローマでとても人気のあった神さまで、色々な言葉の由来になっています。例えば、ローマを建国したロムルスは軍神マルスの息子であるため、古代ローマ人は自分たちのことを「figli di Marte」と呼んでいました。

イタリア語の3月「marzo」も、ラテン語の「Martius mensis(マルスの月)」から生まれています。軍神マルスの月marzoは古代ローマでは1年の始まりとなる聖なる月で、色々なお祭りが執り行われていました。そして、3月は春の始まりとともに戦争の始まる月でもありました。

また、占星術などで惑星Marteを表すシンボル「♂」も、軍神マルスの盾と槍をもとに作られたと言われています。このシンボルは、生物学では軍神マルスにちなんで「男性」を表したり、錬金術では酸化鉄の赤が火星と同じために「鉄」を表したりします

2016-03-siena07イタリア語では、お天気の変わりやすい3月を「marzo pazzo」や「marzo pazzarello(狂った3月)」と表現することがあります。また、そこから派生して「è nato di marzo(あいつは気分屋の変人だ)」という表現も生まれています。英語の「Mad as a March hare(3月ウサギのように気が変だ)」という成句もあるように、3月は春の訪れに心ときめき、どこか落ち着かない月なのかもしれませんね。

寒くなったり温かくなったりする忙しない時季ですが、皆さんどうぞお元気に春をお迎えください!

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲

E pur si muove! それでも地球は動いている!

こんにちは。皆さんお元気ですか?どのような新年のスタートをお迎えになったでしょうか?早いもので2016年に入りもう1ヶ月が過ぎようとしています。

さて、本年度のお便りは、少し視点を変えて私たちの住む世界から遠く離れた場所、太陽系の惑星をキーワードにお届けします。暗いニュースの目立つ近年ですが、太陽に照らされて夜空に光る惑星にあやかり、私たちの2016年も明るく輝くるよう願いを込めてお便りしたいと思います。

pianeti terrestri nasa

ptolemaios現代イタリア語で惑星を意味する名詞はpianeta。ラテン語のplanētaから派生してできた言葉ですが、もともとはギリシア語で「さまよい行く」という意味の動詞planáōから生まれています。古くは空を移動しているように見えた天体の総称で、惑星だけでなく太陽や月も含んでいました。

古代ギリシアの天文学者プトレマイオスは地球を宇宙の中心とする天動説を唱え、地球から近い順に、月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星、恒星と並んでいると考えました。

詩人ダンテ・アリギエーリはこの宇宙観に則り、『神曲』の中で天国界の第1~8天までを月天、水星天、金星天、太陽天、火星天、木星天、土星天、恒星天としています。

古代から地動説を唱える学者はいたものの、近代までは地球を中心とする天動説が広く信じられていました。プトレマイオスの天動説に決別し、太陽を中心とした惑星の体系を唱えて旧来の宇宙観を転回したのは、ポーランドの天文学者コペルニクスです。世界の認識に大転換を与えた地動説は社会に大きな波紋を投じました。

天文学の父と呼ばれるガリレオ・ガリレイは、コペルニクスの地動説を支持したために17世紀に宗教裁判にかけられています。sistema copernicoガリレオは地動説を放棄する宣誓をした後で、「E pur si muove!(それでも地球は動いている)」と独りごちたと伝えられています。

皆さんもご存じの通り、現在は太陽のまわりを回る惑星は地球を含めて8つとされています。私たちの住むTerra(地球)をのぞく7つの惑星は、Mercurio(水星)、Venere(金星)、Marte(火星)、Giove(木星)、Saturno(土星)、Urano(天王星)、Nettuno(海王星)と、イタリア語ではローマ神話の神々の名前がつけられています。地球にだけ神さまの名前がつかなかったのは、天と地、神と人間を分けていた古代の世界観の反映と言えるでしょう。

terra nasa

クリスマス休暇から職場や学校に戻り一段落する1月後半あたりは、最近のヨーロッパでは1年で最もナーバスな気分に陥りやすい時期とされているとか。E pur si muove! 私たちの一喜一憂にお構いなく宇宙で回り続ける地球や惑星を思うと、悩みや不安もずいぶんと小さく感じられるかもしれませんね。

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲

Chi ha carità, carità aspetti 愛ある人を愛が待つ

こんにちは。あっという間に12月となり、今年も終わりに近づきました。一年で最も忙しない月ですが、皆さんお元気にお過ごしですか?シエナの町はクリスマスのイルミネーションが輝き、愛する家族や友人へのプレゼントを抱えた人々が足早に行き交っています。
albero natale natale ornamento regali natalizi

今年最後のお便りは、このシーズンにピッタリの美徳carità(愛)をテーマに締めくくりたいと思います。
carità in buon governo
愛の美徳caritàは、西洋世界では古くからfede(信仰)、 speraza(希望)の徳とともに3つの神学的徳として尊ばれ、その中でも一番大切な徳であるとされてきました。

ロレンツェッティのフレスコ画『Allegoria del Buon Governo(善政の寓意)』の中では、頭に冠を戴き、手に燃え盛る心臓と矢を握る天使の姿で描かれています。擬人化されたシエナ共和国の頭上に羽ばたくCaritàは、Sapienza Divina(神の英知)と共に絵の最上位に配置され、町の繁栄には博愛の精神が何にも増して肝要であると説いています。

ロレンツェッティと同時代を生きたシエナの守護聖人の一人、サンタ・カテリーナは、「Tutti i vizi sono conditi dalla superbia, si come le virtù sono condite e ricevono vita dalla carità(すべての悪徳はおごりの香りがするけれど、すべての美徳は愛から生まれ、愛の香りがする)」 と言っています。

carità fanciullaロレンツェッティの描いたCaritàは古典的な姿をしていると言われますが、絵画や彫刻などの芸術作品の中では、キリスト教美術の伝統に則って擬人化された、幼子たちに授乳する若い娘の姿をしたCaritàをよく目にします。

 

例えば、ジョットがパドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂に描いたCarità。果物と花の盛られた籠を右手に持ち、左手で神さまからお金の入った袋を受け取っている若い娘の姿は、cartàが自らを養い他人を助ける術であり、愛に満ちた人は神さまから必要なものすべてを受け取る、という寓話を表しています。carità giotto

 
イタリア語のcaritàは、形容詞caro(愛しい)と同じ語源を持っています。ギリシア語のchàris(優美)を模倣してラテン語の形容詞carus(愛しい)が生まれ、そこからラテン語の名詞caritas(愛、博愛)が派生し、イタリア語のcaritàとなりました。英語のcareや charityなども同じ語源です。イタリア語のcaritàには、博愛、慈愛、隣人愛などにあたる「愛」いう意味があるほか、charityのように「慈善」という意味もあります。例えば、「chiedere la carità(施しを乞う)」や 「fare la carità(施しをする)」という具合です。また、間投詞的に「Per carità!」と言うと、「無理無理!何馬鹿なこと言っているの!ちょっと、やめてよ!」と否定的な表現になります。

 

 
今年は非情なテロ事件が頻発し、世界に大きな影を落としました。そして、ヨーロッパではさらなる極右の台頭、日本では憲法第9条の改正と、世界の平和が脅かされていることを実感する一年でした。愛だけで世界を救うのは難しいかもしれませんが、古人は何百年もの昔からcaritàが平和な社会の繁栄に欠かせない徳だと私たちに伝えています。大切な家族や友人たちと過ごす行事があまたの年末年始は、愛について思いを巡らす最高の機会です。皆さんの周りに愛が溢れる時となりますように。どうぞ素敵なクリスマスと良いお年をお迎えくださいませ。

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲

La temperanza è la madre della sanità 節制は健康の母

Vetrina

 

こんにちは。例年になく温かい秋ですが、皆さん元気にお過ごしですか?ハロウィーンをテーマに彩られた町にはカボチャや栗など旬の野菜が並び始め、ワインやオリーブオイルの初物が待ち遠しい季節になりました。秋は、文化、運動、行楽と何をするにも気持ちのいい時季ですが、食欲も一段と旺盛になってきます!今月のお便りはtemperanza(節制)の美徳を取り上げたいと思います。

 

節制の美徳temperanzaは、古くから西洋で重要な徳目とされてきました。本年度のテーマ、アンブロージョ・ロレンツェッティのフレスコ画『Allegoria del Buon Governo(善政の寓意)』中でも、擬人化されたTemperanzaが四元徳の一つとしてGiustizia(正義)、Prudenza(賢明)、Fortezza(剛毅)とともに描かれています。女性の姿をしたTemperanzaは手に砂時計を持ち、知恵をつかってバランスよく時間を使うよう人々に諭しています。思慮によって衝動を抑えて自らを律し、自然の欲求や必要をバランスよく満たしながら暮らすことで、健全な思考や調和が生まれると教えています。

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イタリア語のtemperanzaは、ラテン語のtemperantia(節制)から生まれた言葉です。語源をさらに遡ると、ラテン語tempus(時間)から動詞temperare(控える)が派生し、その現在分詞から名詞temperantiaが生まれています。もともとtemperareには「混ぜて正しい割合にする」という意味があり、特に古代ローマの風習であった「ワインに水を混ぜてちょうどよい強さにする」ことを表していました。タロットカードや芸術作品の中では、水差しや瓶や杯を手に持ち、温かい水と冷たい水、ワインと水を混ぜているTemperanzaの姿がよく見られます。
動詞temperareには、ほかにも「毒を調合する」、「色を薄める」といった使い方がありました。そこから、絵画技法のtempera(テンペラ)という言葉も生まれています。例えば、una parete affrescata a temperaは「テンペラ技法で描かれたフレスコ装飾の壁」と技法を意味し、una tempera di Leonardoは「レオナルド作のテンペラ画」と作品自体を意味します。Affresco LeonardoTemperanza Pollaiolo

 

 

 

 

 

イタリアの多くのことわざもtemperanzaの大切さを伝えています。La temperanza allunga la vita(節制は長生きのもと)、La temperanza è la madre della sanità(節制は健康の母)、La temperanza è la miglior medicina(節制は最良の薬)、La temperanza è la salute dell’anima e del corpo(節制は心と体の健康)などがあり、temperanzaが心身を健やかに保つ秘訣とされてきたことが窺えます。
昭憲皇太后は、「春の花 もみぢの秋の さかづきも / ほどほどにこそ くままほしけれ」と、節制を題に和歌を詠まれたそうです。

腹八分目に医者いらず、天高く馬肥ゆる季節もしっかりとtemperanzaの美徳を胸に刻み(!?)、心も体も健康的に秋の味覚を嗜みたいものです。

PENTAX Image

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲

Santa pace! いい加減にしてよ!

paceこんにちは。お盆も過ぎ、記録的な猛暑の続いたこの夏もそろそろ終わりに近づいてきました。急に涼しくなってきましたが、皆さん元気にお過ごしでしょうか?残りわずかとなった今月は、原爆の日や終戦記念日、各地で開かれる平和記念式典と、多くの日本人が過去の戦争や平和について強く思いをはせる月でした。今回はpace(平和)という美徳をキーワードにお便りしたいと思います。

今年度のお便りのフレームになっている14世紀のフレスコ画『Allegoria del Buon Governo(善政の寓意)』。そこには、シエナ共和国発展のために必要なさまざまな美徳が描かれていました。西洋文明の伝統にのっとって宗教的、哲学的な徳が多く描かれる中、ひときわ大きな存在感を示していたのが世俗的な徳ともいえるpaceの擬人化された姿です。当時のシエナでは、不要な戦争は町の繁栄を脅かすものであると捉えられていました。前回のお便りでも触れたイタリアの諺「La pace e la concordia hanno edificate tutte le città(平和と調和がすべての町を築いた)」の通り、ロレンツェッティのフレスコ画は「平和あってこそ真の繁栄がある」と、paceの重要性を強調していました。

 

eireneイタリア語で平和を意味するpaceという単語は、古代インド=ヨーロッパ語に遡る古い語源を持ち、ラテン語のpax(平和)という単語を経て生まれました。paceと同じ語幹*pak-、 *pag-からは、「契約」を意味するpatttoという単語なども派生しています。大文字でPaceとすると、ギリシア神話の女神エイレーネーにあたる平和の女神を表します。

平和を意味するpaceには、たくさんの成句や使い方があります。例えば、少し昔に使われていた「Pace e bene」や「La pace sia con voi」という別れの挨拶。もともとは「平穏無事でありますように」という意味がありました。現在のイタリアで日常的な挨拶としては使われませんが、宗教関係者の間で交わされる挨拶や若者がふざけて大げさにする挨拶として耳にすることがあります。一方、ケンカ中によく聞こえてくるのは「Lasciami in pace!(もう放っておいてよ!)」、「Santa pace! (もうたくさんだ!)」といった表現。また、「Dammi mille yen e siamo pace(千円くれたらそれでチャラだ)」といったように、トランプなどのゲームの引き分けや、友達同士の貸し借りがない状態のことを表したりもします。

bandiera-paceさて、平和を訴えるデモや集会などでよく掲げられる7色の平和の旗をご存知ですか?現在世界中で使われているこの旗は、実は1960年代にイタリアで生まれました。イギリス発祥のピースマークの旗に影響を受けて作られたと言われ、虹の7色は神様が約束した平和の証や多様性を認める統一を象徴しているとされています。配色はゲイパレードなどで使われる虹の旗とは上下逆さで、上から紫、青、水色、緑、黄色、オレンジ、赤となっています。イタリアでは2002年から飛躍的に知名度の上がった旗で、イラク戦争やアフガン紛争への参加に反対する市民運動『Pace da tutti i balconi(すべての窓に平和の旗を)』では100万を超える旗がイタリア中の窓に掲げられたと言われています。

churchill一方、日本で写真を撮るときにお馴染みのピースサインも、平和に強く結びついて普及した身振りです。もともとは大戦時にウィンストン・チャーチルやシャルル・ドゴールが勝利を意味して用いていたVサインが始まりだったと言われています。その後1960年代の反戦運動でVサインが多用され、勝利のほかにも反戦や平和の意味が込められたピースサインとして広まりました。日本では70~80年代にピースサインとして一般的に流行り始め、今では写真撮影時の定番のポーズになっています。

現在、私たち日本人はポップなピースサインに馴染みがあるだけでなく、世界にもまれな平和主義の法のもとに暮らしています。悲惨な戦争を経て制定された日本国憲法は、平和的生存権の保障と恒久平和主義を基本原理としています。昨今大きな注目を集めている憲法9条改正の動きは、私たちと平和との関係を大きく変える恐れのある由々しき一大事。平和の大切さを重ねて説いてきた東西の古人も、「Santa pace!」と嘆いているに違いありません。hiroshima

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲

La pace e la concordia hanno edificate tutte le città 平和と調和が都を築く

こんにちは。梅雨空のもとお天気はすっきりしませんが、みなさん元気にお過ごしでしょうか?

さて、今回のお便りでは、concordia(調和)という美徳をテーマに取り上げたいと思います。人と人のつながりが希薄になり競争的な個人主義が広がる現代において、私たちは「他者と和する」という徳についてあらためて考えてみる必要があるのではないでしょうか。

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今年度のお便りのキーポイントになっている14世紀のフレスコ画『Allegoria del Buon Governo(善政の寓意)』。その中で作者アンブロージョ・ロレンツェッティはどのようにconcordiaの美徳を描いたのでしょう。女神の姿をしたConcordiaは木材を削る道具のかんなを膝に乗せ、正義の女神に仕える二人の天使からのびるロープを手に握り、そのロープをシエナ市民の手に渡しています。24人のシエナ市民は異なる服装を身にまとい、フレスコ画の中で一番大きく描かれた王様(シエナの町)の足元に並んでいます。シエナ市民のバラバラの服装は異なる職業や境遇の人々がシエナに集まっていることを表し、かんなは異質なものを平たく平等にするシンボルとして描かれています。つまり、シエナの町には異なるバックグラウンド、興味、利害を持つさまざまな人間が住み、皆が正義のもと平等に調和して暮らすことで偉大な都市国家シエナが成り立っている、という寓話が描かれているのです。

 

2. Effetti di buon governo in cittàこのように『善政の寓意』の中では調和の女神Concordiaがとても重要な役割を担っていますが、その隣に描かれたもう一枚のフレスコ画『Effetti del Buon Governo in Città(都市における善政の効果)』の中でもconcordiaの大切さが繰り返し強調されています。絵の中央で踊る女性は、平和的な共生に不可欠とされるconcordiaを象徴していると言われています。イタリアの諺に「La pace e la concordia hanno edificate tutte le città(平和と調和がすべての町を築いた)」とあるように、ロレンツェッティのフレスコ画は「市民の調和は平和とともに町の繁栄に欠かせない大切な徳である」と説いていました。現代イタリア語の名詞concordiaは、感情などの一致や調和を意味します。語源はラテン語の形容詞concorsから派生していて、もともとは「結合」という意味を付加する接頭辞con-と「心」を意味する名詞corが組み合わさっています。Concordiaと大文字で始まるとローマ神話の調和の女神(ギリシア神話のハルモニアにあたる)をさします。

 

4. Pace in Allegoria di buon governo古代ローマでは女神Concordiaは調和と共同体の神として崇められ、紀元前3世紀頃には現在のローマに複数の神殿が建立されていました。また、ローマ帝国時代にはその姿が多くの硬貨に刻印されていました。女神Concordiaは丈の長いマントをまとい、手にオリーブの枝やパテラと呼ばれる酒杯、豊穣の角(コルヌコピア)、伝令使の杖(カドゥケウス)を持った女性の姿であらわされています。

 

 

3. Shotokutaishi遠く離れた日本でも、古くからconcordiaの大切さが説かれていました。聖徳太子が7世紀につくったといわれる日本最古の成文法「十七条憲法」。その第1条「和を以て貴しと為す」はその極みで、他人と調和して生きる大切さについて言及しています。外国から新しい文化が伝わる中、複数の価値観を認めて平和的に共存することを人々に説いたのです。

グローバリゼーションの時代といわれる現代。平和国家として繁栄し、これからも平和な世界の発展を望む私たちは、古人にならって他者への理解や寛容、他者との調和といった大切な徳を忘れないよう努める必要があるのではないでしょうか。

La pace e la concordia hanno edificate tutte le città. 千代の繁栄を願い、平和も調和もしっかりと心に刻んでおきたいものです。

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲

Speranza a buon mercato! さあさあ、希望の大売出しだ!

みなさん、こんにちは。新学期も始まり、春も満開となりました。近づくゴールデンウィークに、ますます気持ちも華やいでくるのではないでしょうか?

さて、今年度は14世紀にシエナで描かれたフレスコ画にちなんで、人の心に宿るとされるvirtù(徳)についてお便りしています。

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今回は、生命の息吹あふれる季節にぴったりの美徳speranza(希望)をテーマに取り上げたいと思います。
アンブロージョ・ロレンツェッティのフレスコ画『善政の寓意』の中で、Speranza(希望)はFede(信仰)とCarità(愛)とともに、擬人化されたシエナ共和国の頭上に描かれました。この3つの徳は、キリスト教では三対神徳とされ特別の意味を持っています。船を留めるために海底に沈めるイカリは希望を象徴するモチーフとされ、新約聖書には希望が人間の魂のためのイカリであると書かれています。

speranza1希望を意味する単語speranzaは、現代イタリア語では「未来や現在において自分の望むことを実現する、と信じ期待する気持ち」と定義されています。語源はラテン語のspes(希望)で、この名詞からラテン語の動詞sperareが派生し、その現在分詞から生まれた古フランス語のespérianceにならう形でイタリア語の名詞speranzaが誕生しました。ちなみに、詩などで使われる文学用語のspeme(希望)は直接spes から生まれています。

 

イタリア語のsperanzaには、「自らの期待に応えてくれると信じている人やモノ」という意味もあります。例えば「Tu sei la mia ultima speranza.(あなただけが頼りなのよ)」といった具合です。また、ancora di speranza(予備のイカリ)、speranza matematica(期待値)といった使い方があるほか、トスカーナ地方では複数形speranzeでヒゲナデシコ(学名Dianthus barbatus)を意味します。

最初のアルファベットを大文字にしてSperanzaとすると、神格化された希望の女神という意味になります。昔の彫刻などには、花のつぼみを右手に持ち、左手で服の裾を持ち上げた希望の女神の立ち姿が残されています。また、現代でもしばしば目にするSpes Ultima Deaというラテン語の表現は「希望は最後の女神」という意味で、女神Speranzaは最後まで人間の傍らに残り人間を見捨てなかった、というギリシア神話の逸話に由来しているようです。

S作家ジャンニ・ロダーリは詩『Speranza』の中で、店を持つならば自分はsperanzaを売ろうと歌いました。一方、ダンテ・アリギエーリの『神曲』では、地獄の入り口に「Lasciate ogne speranza, voi ch’intrate(山川丙三郎訳:汝等こゝに入るもの一切の望みを捨てよ)」の文字が書かれていました。詩聖のうたうように、希望を失ったらこの世は地獄になってしまうのかもしれません。春の緑のつぼみとともに、私たちの希望もあちこちで大きくふくらんでいきますように。

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲

Considerate la vostra semenza: fatti non foste a viver come bruti, ma per seguir virtute e conoscenza. 人間とは徳と知識を求めて生きるもの

6_carnevaleこんにちは。寒いながらも少しずつ春の兆しが感じられる季節になりました。皆さん、お元気ですか?

さて、 2015年に入って間もなく私たち日本人は衝撃的な事件に襲われ、激動の世界情勢を改めて痛感しました。心ふさぐようなニュースの多い昨今、古人に学び、人間一人ひとりに宿るとされる美徳を見つめなおすことで、私たちの心に希望の光をともし続けることができないでしょうか?

今年度のお便りでは、約700年前にシエナで描かれた一面のフレスコ画を手掛かりに、人間の善き心、さまざまなvirtù(徳)について考えていきたいと思います。

Buon Governo今回取り上げるフレスコ画は、1338-9年に描かれた『Allegoria del Buon Governo(善政の寓意)』です。

当時「i Nove」と呼ばれる9人の市民代表の統治によって経済的にも文化的に栄華を極めていたシエナ共和国が、当代一の画家Ambrogio Lorenzetti(アンブロージョ・ロレンツェッティ)に委嘱して描かせた作品です。

『善政の寓意』は他の3つのフレスコ画とともにシエナ市庁舎の平和の間の壁に描かれ、議会に集う執政者たちを取り巻くように配置されました。

フレスコ画は、善い政治によって社会の秩序と調和を保ち、市民がより豊かな生活をおくれるよう、執政者たちにvirtùの大切さを日々説いていたのです。
Pace

ロレンツェッティは、『善政の寓意』の中に10あまりのvirtùを人や天使の姿で描き出しました。

擬人化されたシエナ共和国の頭上には、Fede(信仰)、 Speraza(希望)、 Carità(愛)の3つの神学的徳。シエナの横に鎮座するのは、西洋古典世界の基本的な四つの徳であるGiustizia(正義)、Temperanza(節制)、Prudenza(賢明)、Fortezza(剛毅)と、当時の徳としては珍しいPace(平和)、Magnanimità(寛仁)。そして、Sapienza Divina(神の英知)、2人目のGiustizia(正義)、Giustizia distributiva (分配的正義)、Giustizia Commutativa(交換正義)、Concordia(和)が、身分や職業の異なるさまざまな市民の調和をつかさどる美徳として描かれています。

徳に導かれた統治により、平和のもとで生き生きと豊かに暮らす人々。『善政の寓意』の右の壁にあるフレスコ画『Effetti del Buon Governo in Città e in Campagna (都市と田園における善政の効果)』には、シエナ共和国の理想郷が描かれています。

ところで、virtùとはそもそも何なのでしょうか?
現代イタリア語のvirtù(徳)は、ラテン語で「人間」を意味するvirから派生し、「力、勇気」を意味するvirtusという単語を経て生まれました。ラテン語のvirtusは、古代ローマでは主に戦いのために人間に授けられた力、勇気をもって戦うことのできる能力を意味していました。

西洋哲学やキリスト教の中で重要なテーマとして扱われて意味が変化し、現代イタリア語では「徳、美徳、道徳心」、「悪いことを遠ざけ良いことをしようとする本来人の心に備わる性質で、賞や罰を勘案せずにそれ自体を目的とする志向性」という意味を持つようになりました。

昔のイタリア語ではvirtude、virtute、vertù、 vertude、 vertuteなどとも綴られていました。「Considerate la vostra semenza: fatti non foste a viver come bruti, ma per seguir virtute e conoscenza」。ダンテ・アリギエーリは『神曲』の中で、本来人間とは野獣のように生きるのではなく、徳と知識を求めて生きるものであると詠いました。

Moneta Virtù洋の東西を問わず、私たちの心には美徳なるものがある、徳を身につける能力があると考えられてきました。多くの文化に共通する徳目もたくさんあります。

中国思想や儒教から日本に入ってきた道徳、例えば、曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』にある8つの徳「仁義礼智忠信孝悌」や、新渡戸稲造の『武士道』に書かれた武士の七つの徳「義勇仁礼誠誉忠」、聖徳太子の制定した憲法第一条にある「和」などは、私たちに馴染みの深い徳でありながら、その大部分がロレンツェッティのフレスコ画に描かれたvirtùにも一致します。

古今東西、個々人の善き心によって多くの人が幸せに和して生きる環境を実現できると考えられている。ということは、私たち一人ひとりの心のあり方によって世界のあり方も変わってくる、ということになるのではないでしょうか。

先月たくさんの家に飾られていたマンリョウの花言葉は「徳のある人」だとか。縁起物にあやかり、私たちの内にあるvirtùとともに2015年もあまたの人々にとって心豊かな一年となりますように。次回からは、具体的にいくつかのvirtùをトピックにお便りしていきたいと思います。

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲

Auguri di buone feste con origano! オレガノでよいお年を!

origano (7)こんにちは。2014年も残すところあとわずかとなりました。何かと忙しい時期ですが、皆さま寒さに負けず元気にお過ごしでしょうか?年の瀬のイタリアは、冷たい冬の空気にイルミネーションが美しく輝いています。今年最後のお便りは、イタリア料理を代表するハーブのひとつオレガノがトピックです。

オレガノoriganoはシソ科ハナハッカ属の多年草の総称です。30ほどの種類があるとされ、一般的に料理でおなじみのオレガノは学名Origanum vulgareという品種にあたります。夏に咲く小さなかわいらしい花にちなみ、花薄荷(ハナハッカ)という和名をもっています。原産は地中海沿岸と言われ、海岸沿いや森林、石の多い丘などに群生しています。オレガノの中には、オレガノ・ケントビューティ―などのように品種改良された観葉種も多くあります。

さて、イタリア語origanoの語源は、ὀρίγανον (または ὀρίγανος) というギリシア語のことばにさかのぼり、もともとは「山の輝き」、「山の喜び」という意味を持っていたようです。その後、ラテン語の origănum (または origănus)を経て現在のoriganoという単語になりました。地方によってoriganoには別名もあり、アンチョビ・ペーストの香り付けに使われていることからトスカーナ地方ではacciughero(アッチューゲロ)やerba acciuga(エルバ・アッチューガ)の名でも親しまれています。

origano (4)オレガノは古くから人々の生活に取り込まれていた植物で、古代ローマでは消化不良、けいれん、かゆみ、扁桃腺炎、おたふくに効く薬草として広く知られていました。現在でも消化促進や口内殺菌の薬に用いられたり、リキュール、香水、石鹸を作る際に用いられたりしています。

そして、オレガノは料理に使うハーブとしても古い歴史を持っています。乾燥させたオレガノの葉は、ほんのりと苦みのきいた芳しい香りのハーブ。イタリアをはじめ、地中海沿岸地方のキッチンには欠かせない食材です。肉や魚はもちろん、トマトとの相性も抜群。オレガノを使った代表的な料理の一つは、ナポリの肉料理pizzaiolaピッツァイオーラ。オリーブオイル、ニンニク、オレガノ、フレッシュトマトで作ったソースでお肉を煮込みます。

origano (1)バジルと同じくオレガノはpizzaにも欠かせないハーブです。定番のマルゲリータと人気を二分するpizza marinara(トマトソース、ニンニク、オレガノ、オリーブオイルのピッツァ)や、ナポリではromanaとよばれるnapoletana(トマトソース、モッツァレッラチーズ、アンチョビ、オレガノ、ケイパー、オリーブオイルのピッツァ)が有名です。

オレガノのシンボルは「繁栄」。古代ギリシアではオレガノの花輪で新郎新婦の頭を飾ったと言われています。オレガノのピッツァをつまみながら新年を迎えるのもまた一興、なんとも縁起がよさそうです。どうぞ皆さまよいお年をお迎えくださいませ。Auguri di buone feste!!

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ダンテ・アリギエーリ・シエナ

ヴァンジンネケン 玲

Come fa un tappeto di camomilla カモミール畑をお手本に

camomilla1こんにちは。秋もだいぶ深まってまいりました。皆さん、お元気にお過ごしでしょうか?イタリアは夏時間もついに終わり、いよいよ本格的に冬支度に入ります。秋の夜長にピッタリ(!?)のハーブということで、今回はヨーロッパ最古の薬草とも言われるカモミールについてお便りしたいと思います。

カモミールcamomillaは一部のキク科の植物の総称です。とりわけ有名なのは、ジャーマンカモミールとローマンカモミールの二つ。一年草のジャーマンカモミールは、イタリア語でcamomilla comuneやcamomilla volgareと呼ばれています。もう一方のローマンカモミールは多年草で、イタリアではcamomilla romana、camomilla inglese、camomilla nobileの名で親しまれています。

camomilla2日本にカモミールが持ち込まれたのは19世紀初頭。江戸幕府がオランダから取り寄せた薬草の中にカモミールも含まれていたといわれています。当初はオランダ語Kamilleをもとにカミルレ、カミツレ、カミッレなどと呼称にゆらぎがあったようですが、次第に統一されて和名はカミツレ(加密列)となりました。現代の日本ではカモミールの名がより普及しています。

イタリア語camomillaは、ギリシア語のχαμαίμηλονからラテン語chamomillaを経てできた言葉と言われます。もともとの意味は「大地のリンゴ」。カモミールの花が放つリンゴのような香りに由来するようです。

イタリア語でcamomillaと言えば、植物自体を意味するのと同時にカモミールティーのことも指します。それほど生活に密着しているカモミールのハーブティーは、眠る前に飲むお茶として特に有名です。乾燥させたカモミールの花を煎じたお茶にはリラックス効果があるため、不眠に悩んでいたり、ストレスの負荷が高まっていたりする時にはありがたいお茶なのです。トスカーナ地方では、レモンをちょっぴり垂らしてお砂糖やハチミツを入れて飲みます。camomilla3

そのほかにもカモミールには様々な作用があると言われ、4000年以上も前から人類の生活に取り込まれていました。古代エジプトでは聖なる植物として太陽神ラーに捧げられていたほか、マラリアの治療にも用いられていたようです。アラビア文化圏ではリューマチの治療などにカモミールの精油が使われ、また、アングロ・サクソン族の古書によればカモミールは聖なる9植物の中で最も力を持つ薬草でした。

camomilla4カモミールの花言葉は「逆境に耐える」。イタリアの古い諺によれば、人生とは、踏まれれば踏まれるほど成長し続けるカモミールのように立ち向かうものだとか。今宵は、カモミールティーでリラックスしつつ、明日への力を充電してみてはいかがでしょうか?

ダンテ・アリギエーリ・シエナ

ヴァンジンネケン 玲

La menta ti calma il cuore ほてった心はミントでクールダウン

menta6こんにちは。暦の上ではそろそろ秋も近づいてきたとはいえ、まだまだ暑い今日この頃。みなさん元気にお過ごしでしょうか?

今回のお便りは暑さも吹き飛ばすような清涼感いっぱいのハーブ、ミントについてお便りします。

ミントは600種を超えるともいわれるシソ科ハッカ属のハーブの総称で、日本ではハッカ(薄荷)とも呼ばれてきました。馴染みの深いものには、ペパーミント(セイヨウハッカ)やスペアミント(ミドリハッカ)などがあります。20世紀初頭には日本が世界一のミント生産量を誇っていたとも言われ、ミントは私たち日本人とも深いつながりをもつハーブです。 ミントはヨーロッパ、アジア、アフリカと広い地域に生息し、古今東西、生活のさまざまな場面で用いられてきました。古代エジプトでは、ピラミッド建設の労働者の食事にミントが供されたり、ミイラの下にミントが敷かれたりしていたと言います。また、媚薬のような効果があるとされていたため、古代ローマの兵士は戦争の前に摂取することを禁じられていたとも伝えられています。

menta2イタリアではミントはmentaと呼ばれ、menta piperita(ペパーミント)やmenta romana(スペアミント)などを筆頭に種類はさまざま。現在も歯磨き粉、湿布薬、スイーツ、ガム、ジェラートなど、色々な用途で使われています。mentaに縮小辞をつけてmentinaと呼ばれているのは、ミントとお砂糖でできたタブレット状の飴。乾燥した葉を使ったtè alla menta(ミントティー)は、フレッシュな香りでリラックス効果があるだけでなく、消化を助けるとも言われています。ミントの葉をふんだんに使ったカクテルmojito(モヒート)はヘミングウェイもこよなく愛したと言われますが、イタリアのバーでも人気のあるドリンクです。 イタリア語mentaの語源をめぐっては諸説ありますが、ラテン語のmĕnthaがギリシア語のμίνϑηと似ていることから、ギリシア神話の妖精メンターにちなんでいるという説が広く知られています。冥府の神ハーデスに愛されたメンターは、ハーデスの妻ペルセポネによって草に変えられてしまい、この草がミントの語源になっているというものです。

menta3さて、最近日本では餃子にまで使われる大人気のミントですが、イタリアのキッチンでも大活躍するハーブです。例えば、簡単に作れるミントペーストは、いつもと一味違った爽快感を食卓にプラスできる万能選手。ミントの葉、松の実、エクストラバージン・オリーブオイル、塩、こしょうをミキサーで混ぜるだけで、グリルした魚やカルパッチョ、焼いたお肉にもよく合うソースになります。松の実をアーモンドに変えるとまろやかに仕上がり、グリルした野菜にもピッタリ。また、ドライトマトなどと一緒にパンにのせれば簡単なアペリティフにもなります。

シチリアでは、La menta ti calma il cuore(ミントは心を落ち着ける)ということわざがあるようですが、秋までもう一息、美味しいミントペーストで心も体もクールダウンしながら爽やかに過ごしてみてはいかがでしょうか?

ダンテ・アリギエーリ・シエナmenta4

ヴァンジンネケン 玲

Il Rosmarino, rugiada di mare 海のしずく、ローズマリー

rosmarino1こんにちは。太陽のまぶしい夏がやってきました。みなさんいかがお過ごしですか?6月に入りイタリアの夏も本番。海岸には色とりどりのパラソルが並び、ジェラートも一段と美味しいバカンスのシーズンになりました。さて、今回は強い陽射しの下でも元気いっぱいに地中海沿岸を彩るハーブ、ローズマリーをテーマにお便りします!

日本でもおなじみのローズマリーは、地中海沿岸を原産とする常緑性の木。日本には江戸時代後期に輸入されたと言われ、現在は調理用のハーブとして用いられるだけでなく、庭や花壇などに植えられ観葉植物としても広く知られています。和名はマンネンロウ。「香りの絶えない」という意味からマンネンコウ(万年香)と呼ばれていたものがなまってできた言葉と言われています。生薬として使われる場合は、「迷いをさまして頭をすっきりさせる」という意味をもつ中国名の迷迭香がもとになり、メイテツコウと呼ばれています。

rosmarino3イタリア語でローズマリーを意味することばrosmarinoは、ラテン語のros marinusやrosmarinusが語源。ローズマリーが海岸に沿って自生していたことから、もともとは「海の露」という意味を持っていました。トスカーナ地方のローズマリーの呼称ramerinoは、イタリア語のrosmarinoに「枝」を意味するramoという単語が混ざってできたことばだと言われています。同じく英語名のrosemaryもラテン語のrosmarinusを起源に持ちますが、こちらは英語のrose(バラ)とMary(マリア)という二つの単語が混ざって変化したようです。

お料理では、まさに万能選手。新鮮な葉や乾燥させた葉は、レバーペーストやジャガイモをベースとした料理に使われるほか、羊、牛、ウサギ、鴨などのローストをはじめとする肉料理やパン、フォカッチャなどとも相性が抜群です。ローズマリーを漬け込んだオリーブオイルは料理に風味を加えるだけでなく、消化を助ける作用もあると言われています。また葉に比べて馴染みの薄いローズマリーの花は、サラダなどに用いられます。

ローズマリーにまつわる説話も枚挙にいとまがありません。中でも有名なエピソードは、聖母マリアにちなむ伝説です。聖母がエジプトから逃れる際にマントをローズマリーの木にかけると、もともと白かったローズマリーの花がマントと同じ水色に変わったと言われています。また、近代にはナポレオンの逸話があります。ローズマリーが頭を覚醒させるとして、ナポレオンは作戦を練る際にローズマリーの精油を大量に消費していたそうです。

rosmarino5消臭、殺菌、抗酸化、鎮痛などの効能があるとされているローズマリーは、古くから生活のさまざまな場面で使われてきました。ペストが流行した時期には、空気のけがれた場所でにおいを嗅ぐことができるようにポケットや袖口などにローズマリーをしのばせて歩いたと言われ、また、ヨーロッパの病院では重病患者のいる病室でローズマリーを焚き、空気のけがれを浄化していたと言われています。

ローズマリーが象徴するシンボルは、「愛」や「思い出」。それにまつわる民間信仰もたくさんあり、例えば、ローズマリーの小枝を水色のリボンでまとめて枕の下に入れて寝ると、夢で思い出の人に会えるのだとか。嗅覚と記憶の結びつきについてはさまざまな研究もあり、あながち迷信とも言いきれなさそうです。今宵、ローズマリーでお肉をローストしたら、懐かしいあの人が夢で待っているかもしれませんね。

ダンテ・アリギエーリ シエナ
ヴァンジンネケン 玲