坂本鉄男 イタリア便り 消えたクリムト 23年後の発見

19世紀末から20世紀初頭にかけて、工芸、美術、建築、絵画など広範囲の分野で「アールヌーボー」という全く新しい芸術様式が欧州を中心に花開いた。今回は、この分野で活躍したオーストリアの代表的画家、グスタフ・クリムト(1862年~1918年)の作品の一つをめぐる事件についてお伝えしたい。

 97年2月、イタリア北部ピアチェンツァの現代美術館からクリムトの傑作の一つ「婦人の肖像」が盗まれた。直ちに捜索が行われたが行方は全くわからなかった。ところが23年の歳月を経た昨年12月、同じ美術館の裏庭の隔壁の間から庭師によって無傷のまま発見されたのである。

 一体これは何を意味するのであろうか。考えられる理由の一つは、盗みに成功したまではいいが、あまりにも知られ過ぎた美術品であるがために転売が不可能となったことである。盗み出すにはかなりの準備と資金を要したであろうに、23年間手元に保管した後に何の報酬もないまま「返却」するとは間の抜けた盗賊団といわれても仕方がない。

 ただ、世の中には表の社会には姿を見せない大金持ちがいる。「婦人の肖像」も彼らが大金を投じて手に入れ、密室で眺めて楽しんでいたという推理もできそうだ。そう考えると、世の中を驚かせる謎の盗難事件はこれからも起きるのかもしれない。

坂本鉄男

(2020年2月4日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)