坂本鉄男 イタリア便り ベルルスコーニ氏ニンマリ? 変わる離婚 男たちには「福音」判決か

メディア王で「超大金持ち」のベルルスコーニ元首相と、2014年に離婚が成立した元夫人。法廷を舞台にした両者の争いで、16日、次のような判決が下された。「元夫人はこれまで受け取った扶養料のうち6千万ユーロ(約80億円)を返還すべし」

 当欄でも以前に紹介したように、5月に別の裁判でイタリア最高裁判所が下した判決は、これまでのイタリアの離婚後の扶養料の考え方を根底から覆した。

 夫は離婚後も、妻が従前と同等の生活水準を維持できる額を支払うとされてきたが、「妻が資産を有し経済力がある場合は、扶養料は必要ない」との初判断を示したのである。不動産を処分するなどして苦しい生活を余儀なくされてきた男たちにとっては福音とも呼ぶべき判決だが、歓迎したのは大富豪も同じだった。

 冒頭の判決で、離婚以来元夫人に毎月140万ユーロの扶養料を支払ってきたベルルスコーニ氏の減額要求に対し、ミラノ高裁は「元夫人は経済的に十二分なる能力を有するため、元夫から扶養料をもらう資格はない」と判断した。元夫人は3億ユーロ以上の資産を有するとも推定されている。

 イタリアの法廷の正面には、「法は万人に平等」のモットーが掲げられている。元首相はニンマリと眺めているのではないか。

坂本鉄男

(2017年11月26日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り W杯敗戦ショック 経済への波及効果も…

ミラノで13日に行われたサッカーW杯ロシア大会ヨーロッパ予選プレーオフで、イタリアはホームアンドアウェー方式の第1戦ですでに敗れていたスウェーデンと対戦した。背水の陣を敷いて戦ったが相手の強固な防御に阻まれ引き分けに終わり、14大会連続出場の強豪が60年ぶりに本戦出場を逃すことが決まった。

 サッカーはイタリアの国技ともいうべきスポーツ。W杯出場は当然のことと思われていただけに、北アイルランドに敗れた1958年以来の不出場がイタリア国民に与えたショックは大きい。ある新聞は「国内政治の不統一がチームに影響を与えたのでは」とまで書くありさまだった。

 W杯優勝チームの賞金は約3400万ユーロ(約45億円)。準々決勝まで進出した場合でも約1160万ユーロが支払われるという。本戦出場に伴う高額の賞金も逃した形だが、経済面の影響はイタリアサッカー界にとどまらない。

 2006年にイタリアが優勝したときには、国際的に大きな宣伝になり、イタリア製品の輸出が10%増加したという。国内総生産は4・1%押し上げられたともいわれ、国内経済への波及効果も大きいようだ。

 こう考えると、W杯出場にサッカーファンだけではなく、一般国民も一喜一憂する理由がよくわかる。

坂本鉄男

(2017年11月19日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 小春日和、伊では「聖者の夏」…その由来は

昔の日本人は、なんとしゃれた艶やかな表現を考え出したのだろう。「小春日和」とは、旧暦の10月の異称の「小春」から出たもので、この時期に(つまり晩秋から初冬にかけて)、気候がまるで一時的に春に似たような暖かい日が続くことをいう。この気象現象は、日本ばかりでなく世界各地で見られ、米国ではインディアン・サマーと表現されるそうだ。

 イタリアでは、この小春日和を「サン(聖)マルティーノの夏」と呼んでいる。伝説によると4世紀、貴族出身でローマ軍団の将校であったマルティーノ(のちにカトリックに改宗し聖人に列せられた)が、晩秋の氷雨が降る日に馬を進めていると、一人の物乞いが寒さに震えていた。これを見たマルティーノは、剣を抜いて自分の羽織っていた白い近衛将校用マントを2つに裂き、片方を与えたのである。

 しばらく行くと、別の物乞いが同じように寒さに震えている。彼は自分の残りのマントを与えたが、天がこの行為を見て、寒さを和らげたと伝えられている。この場面は、聖人の逸話としてよくカトリック絵画の題材に取り上げられてきた。

 彼は後年、フランスのツールの市民に請われて司教となり、布教に尽くしたといわれる。

坂本鉄男

(2017年11月12日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り インチキ百人隊長にご注意

古代ローマ帝国の強力な軍団の中枢をなしていたのが、ケントゥリオ(イタリア語でチェントゥリオーネ)と呼ばれる「百人隊長」だった。大体、100人の部下を指揮・監督していたのでこの名前で呼ばれた。百人隊長の軍装は、普通の軍団兵と比べて非常に派手で、羽根飾りのついたかぶとや数多くの勲章をぶら下げたよろい、左前にさした短剣などが特徴であった。

 さて、この古代ローマの百人隊長の格好をした男たちが、円形闘技場コロッセオなどローマ市内の名所旧跡にたむろし、観光客を相手に記念写真を撮らせてチップを取っている。一時、市当局がこうしたいかがわしい連中は観光都市にふさわしくなく、違法だとして処分を下したが、彼らの一部が生活権の侵害として行政裁判所に訴えた結果、市の禁止条例が停止され、無秩序状態に陥っている。

 東京から来た友人は、古代ローマとはなんの関係もないローマ市のど真ん中の観光名所「スペイン階段」で、この古代の軍装をした男に呼び止められた。一緒に記念写真を撮ってチップを与えたところ、額が少ないと脅される目に遭ったという。

 秋の観光シーズンにローマにおいでの方は、遺跡で待ち構えるハリボテで飾ったインチキ百人隊長の餌食にならないようご注意を。

坂本鉄男

(2017年10月15日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 蒸気機関車の発明が生んだ新たな悲劇…後を絶たない鉄道自殺

東京近郊に住む友人の手紙にこうあった。「都心に行くのにJR中央線を利用するのだが、よく人身事故による遅延に出くわす。大部分が投身自殺だ。中央線は日本でも最も投身自殺が多い路線の一つらしい」と。

 イタリアでも最近鉄道自殺が多くなり、2015年には135件発生している。だが、未遂を含む発生件数が過去10年間で約6千件にも上るという日本ほどではない。

 私が外国にも鉄道自殺があるのを知ったのは中学時代、トルストイの長編小説「アンナ・カレーニナ」を読んでからだ。美しく裕福な女主人公が人生に絶望して列車に飛び込み自殺する状況を、トルストイがかなり詳しく描いているのに驚いたことを思い出す。

 「鉄道の父」スティーブンソンが蒸気機関車を製作したのが1814年。イタリアのナポリ-ポルティチ間で約7キロの路線が開通したのが1839年。新橋-横浜間での鉄道開業が1872(明治5)年。そして、1877年に「アンナ・カレーニナ」の初版が刊行された。

 こうしてみると、蒸気機関車の発明が人間に新しい自殺の方法を教えるのに、それほどの年月がかからなかったことがわかる。

 不幸を抱えて列車に飛び込む人をなんとか助けられないものか。

坂本鉄男

(2017年10月1日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 風呂との縁切ってしまった中世ヨーロッパ

残暑の厳しいときは入浴が一番である。浴槽の中で手足を伸ばしたとき、日本に生まれた幸福感を一番強く感じる瞬間ではないか。

 古代ギリシャ人もローマ人も風呂が好きだった。このため、古代ギリシャでは客に風呂を所望され、断ることは大きな侮辱になったといわれる。カラカラ帝の大浴場で知られるように、ローマ皇帝たちは民衆の人気集めに大浴場を建設し、国外に植民都市を建設するときにも必ず大浴場を建てた。現在も各地の植民地跡にその名残がある。

 そんなヨーロッパ人と風呂の縁が切れるのは、蛮族の侵入により水道施設や浴場が破壊されたことと、キリスト教文化による。教会は、体の清潔は精神的清浄を意味すると考える一方、裸体で浴槽につかっていることは肉欲にも繋がると否定的だった。中世の医学でも、入浴により皮膚の表面から水の悪い成分が体内に入ると信じられた。

 ローマの貴族出身で、わずか13歳で殉教したと伝えられる聖女アグネスは、一度も入浴したことがないといわれる。フランス王ルイ14世は約70年の在位中1回風呂に入っただけであった。貴婦人たちも同様で、風呂に入る代わりに下着を絶えず替え、体臭を隠すため香水をふりかけていた。

 湯浴(ゆあ)み好きだった日本女性の方がずっと清潔であったのである。

坂本鉄男

(2017年9月17日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 青かびチーズ・ゴルゴンゾーラのにおい 日本人向きの「甘口」、「辛口」は強烈

7月に日欧の経済連携協定(EPA)が大枠合意に達し、輸入拡大が見込まれる欧州産チーズ。フランスに負けず劣らず、イタリアにも豊富な種類のチーズが存在することが、日本ではあまり知られていない。

 牛乳あるいは羊乳のチーズを青かびで熟成させたブルーチーズでいえば、イタリアのゴルゴンゾーラはフランスのロックフォール、イギリスのスティルトンと並び、世界の三大ブルーチーズと称されている。近年は日本でもかなり人気で、そのままパンに塗って食べたり、パスタのソースに混ぜて使われたりしている。

 北伊のピエモンテ州とロンバルディア州の特産品。牛乳のみを原料とする。名前の起源はロンバルディアの州都ミラノの東、約15キロのゴルゴンゾーラ村だ。それほど歴史の古いチーズではなく、15世紀以降のものといわれる。

 普通は店で切ってもらい購入するが、原型は直径25センチ前後、高さ15センチほどの円筒型である。甘口(ドルチェ)と辛口(ピッカンテ)の2種類があり、50日ほど熟成させた甘口は、青かびの量も少なく、独特のクセはそれほどではない。

 一方、辛口は甘口の原形に針で穴をたくさん開け、内部まで青かびを浸透させ80日ほど熟成させたものだ。慣れない日本人は、匂いの強い辛口は避けた方が良い。

坂本鉄男

(2017年9月10日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り ローマにもいた 露店牛耳る大親分一家 巨額の権利保持する「帝国」の実態

香具師(やし)とは、縁日などで露店や見せ物などの場所割りをする地元の顔役のことで、的屋(てきや)とも呼ばれ歴史は古い。日本独特の存在だと信じていたら、ローマにもよく似た露店の大親分一家がいることがわかった。

 秋から冬にかけ、ローマを観光で訪れた方は、スペイン広場の角をはじめとする目抜き通りの方々に露天の焼きぐり屋があるのを覚えておられるだろう。あるいは夏、観光名所に駐車して冷たい飲み物などを売っている小型バス式の野外販売店が記憶に残っているかもしれない。それらのほとんどは、「トレディチーネ一家」の下で働いている。

 ローマ市が許可した野外販売の小型バス68台のうち42台は、この一家のものだという。ある労働組合の試算によると、この販売店の権利だけで時価総額は5千万ユーロ(65億円)に上るという。

 このほか、クリスマスの時期にナボーナ広場を埋め尽くす露店や、野外劇のテントなども一家が多くの権利を持つ。市当局も口を挟めないほどだ。

 一家の初代ドナート氏は1969年に田舎から出てきて昼は労働者、夜は焼きぐり屋として働いた。人々がこの世界のうまみにまだ気づかないときに、市からさまざまな形態の権利を取り集め、「露店帝国」を築いたという。

坂本鉄男

(2017年9月3日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 代表的貝料理 コッツェの食べ方

イタリア語で「コッツェ」とはフランス語の「ムール貝」のことである。日本にも「イガイ」の名前で存在するが、小さくて食用としてはあまり一般的ではないかもしれない。イタリアのレストランで魚介類のパスタを注文すると、エビ、アサリなどのほかに、黒くてやや細長い、大ぶりのコッツェがたくさん入ってくる。案外身が小さいものも多いが、コッツェだけを注文すれば大きなものを山盛りにした皿が運ばれてくる。

 ヨーロッパの海、特にイタリアやフランスの静かな海では、いかだがずらりと並び、波に揺れている。コッツェの養殖いかだだ。いかだから海底にわらのひもを垂らし、稚貝を付着させて大きくさせる方法をとる。

 ナポリ衛生局などは、A型肝炎にかかる危険が非常に大きいとして、きれいな海水で養殖されたもの以外は生で食べないよう注意喚起している。もっとも、温度85度で15分、100度で1分煮れば安全というから、十分火を通したものを食べれば問題ない。

 一方、家庭でコッツェを料理する際は掃除が大変だ。貝からわらを引き抜き、金属たわしで貝の付着物を落とさなければならない。

 結局、レストランで食べるべき代表的貝料理の一つである。

坂本鉄男

(2017年8月27日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 放置された180万年前の鯨の化石

古くから鯨の肉を食べてきた日本人と違い、鯨と関わりのない国民、とりわけ山間部の地域住民にとって鯨の化石など全く興味がないらしい。

 奇妙な屋根を持つ石積みの家が並ぶ街アルベロベッロと並び、南イタリアの日本人観光客が必ず訪れるのが、谷の岩場の斜面を掘った「洞窟住居」で知られるマテーラだ。

 2006年の夏、マテーラから数キロの人工湖付近で農民夫婦が推定180万年前の鯨の化石を発見した。脊柱12個、脇腹の骨や顎など多数が見つかり、全長は世界最大級の25メートルに及ぶという大発見だった。しかし、その後10年間箱詰めにされ、詳しい調査が行われないまま放置されてきた。

 一方、発見者の農民は、「貴重な品物を掘り当てた場合、その価値の半分の報奨金が与えられる」と聞いていたので、しびれを切らし弁護士を立てて国を訴えた。この結果判明したのは、予算不足でこの貴重な化石を放置してきた事実だった。

 マテーラは、世界遺産に指定される洞窟住居で観光客を集め、19年には一年間にわたり集中的に各種の文化行事を展開する「欧州文化首都」にも指定されている。欧州を代表する文化都市だというのに、「世紀の大発見」といわれる化石に目を向けないのは不思議でならない。

坂本鉄男

(2017年8月20日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り オトコたちに朗報?

離婚の原因は洋の東西を問わず男性側の浮気がいちばん多いようだ。これまでのイタリアだと、ある程度資産家の男性に非がある場合には「元妻が死ぬまで、結婚生活時の水準を維持していくだけの扶養費を支払い続けるか、それに見合う金額の慰謝料を支払うこと」が離婚調停の成立条件の一つになることが多かった。

 例えば、イタリア有数の資産家であるベルルスコーニ元首相の場合も、長年連れ添ったベロニカ・ラリオ元夫人に対し法定別居期間中の扶養費として、1審では広大な屋敷など不動産のほか、月々300万ユーロ(約3億7千万円)を支払うよう命じられた。あまりに高すぎるとして訴えた最高裁判所でも、つい最近、減らされたとはいえ月々200万ユーロの支払い判決を受けた。

 さて、同じ最高裁は、去る5月に「離婚の慰謝料は、元妻に経済的余裕がある場合にはこれを勘案して定める」との革命的ともいえる判決を下した。イタリアでは離婚に伴う慰謝料支払いのため夫が住居を売り貧しい暮らしに陥っているケースが多いだけに、当事者の男たちにとっては“福音”ともいえる内容にちがいない。

 一方で元首相のように高額な扶養費を支払っている金持ちが、減額を求め法的措置に訴える事態も予想される。

坂本鉄男

(2017年6月18日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 山火事との闘い

南欧の夏は山火事との闘いである。雨が何カ月も降らず乾燥した森林が薪のように火がつきやすくなることに加え、放火が多いという問題も抱えている。

 先月も、ローマ郊外の海岸沿いにある松林が広範囲にわたって焼け、近くに別邸を持つ大統領は「放火魔には刑法を改正し厳罰を」と訴えた。放火犯の量刑は4~10年の禁錮刑と重いが過失の場合は1~5年と軽い。これまで故意を立証するのが難しく、軽い刑で終わってしまうことが多かった。

 さて、山火事の際に威力を発揮するのは、カナダの航空機メーカー、カナディア社で開発された消火用飛行艇である。最大時速250キロで現場に飛行し、大量の水を一気に投下する。給水には海や湖の水面すれすれを時速140キロで移動し、わずか12秒で6千リットルもの水をくみ上げていく。

 ただ、1機約260億円と高価なのが欠点。イタリアで稼働する同型艇16機は全て民間の所有で、国が契約を結び借り上げている。今年のように山火事が多いと、国家の支出は莫大(ばくだい)だ。

 歌舞伎や落語でおなじみの「八百屋お七」は、火事が縁で知り合った恋人に会いたい一心で放火に及び、火あぶりに処せられた。やはり、犯行には厳罰が待ち受けていることを周知させることが重要ではないか。

坂本鉄男

(2017年8月13日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り クレオパトラの鼻はそんなに素晴らしい?

古代ローマのジュリアス・シーザーとアントニウスの両英雄をその美貌でとりこにした絶世の美女、クレオパトラ。紀元前30年8月に毒蛇コブラに胸を噛ませて(一説には毒薬を飲んで)黄金のベッドの上で自殺した。彼女の死は、プトレマイオス朝の古代エジプト王国の滅亡を招いた。

フランスの哲学者、パスカルの有名な表現「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら世界の歴史は変わっただろう」(原文の意訳)とあるように、クレオパトラはエジプトの女王ではあったがギリシャ系の生まれで、鼻が高く目の大きい美しい容貌をしていたものと想像される。しかし、彼女の顔を描いたものは残存していない。

 現代人は、ハリウッド映画で名女優、エリザベス・テーラーが演じたクレオパトラの顔を想像するが、全然違っていたかもしれぬ。実際、パスカルもクレオパトラの美しさを評価したわけではなく、「顔の一部である鼻、すなわち些細(ささい)なことが、大きな影響を与える可能性がある」ということを意味したとも言われている。

 日本人は、鼻が低いことに劣等感を持つ必要はない。白人だって、鼻が高すぎるのを気にしている人もいるのだから。貴方の彼女の鼻が一番奇麗だと思っているほうが利口ですよ。

坂本鉄男&

(2017年8月6日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 食い止めた「偽装出産」

ローマの南、ラティーナ市。強盗罪で入獄したばかりの夫と面会するために妻が偽装出産を計画した。子供連れで面会を申請すると、許可される可能性が高まると考えたためだとみられる。

 妻は、悪徳仲介業者に妊娠4カ月のルーマニア人の独身女性を探してもらい、出産と同時にその赤ん坊を受け取る契約を結んだ。近所に怪しまれないように、腹に少しずつ厚い袋を巻き付けていき、妊娠しているよう装った。

 市役所の戸籍係に何度も足を運んでは、出産の届け出の方法まで尋ねる念の入れようだった。

 そして、今年2月、届けられてきた赤ん坊を見て驚いた。黒い肌だったのだ。夫婦はともに白人。妻はすぐに「約束と違う」と赤ん坊を返した。

 一方、不審に思ったのは市役所の戸籍係。出産予定日を1カ月以上過ぎたのに、あんなに熱心だった女が姿を見せない。女の自宅の近所を訪ねたが、出産したという噂はまったくなかった。

 そこで届けを受けた警察が捜査した結果、「偽装出産」が判明した次第。赤ん坊は本当の父親である、アフリカ系移民の黒人男性に引き取られた。

 仕事熱心な公務員がいたからこそ、赤子は無事であったわけである。

坂本鉄男

(2017年7月30日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り
 妻帯を許さぬカトリック…でも、少年への性的虐待、愛人囲う法王まで… 特異な制度の影

 キリスト教の中でもカトリック教会だけが司祭の妻帯を許さない。このため、結婚するとカトリック教会から除籍されてしまう。妻帯を禁ずるようになったのは1139年の第2ラテラーノ公会議以来とされるが、それ以前は妻帯は普通であったし、その後も規則はたびたび破られた。

 典型的な例はスペイン・ボルジャ家出身の15世紀の法王アレクサンデル6世である。カトリック教会の最高位にあって模範を示す身でありながら、半ば公然と愛人を囲った。息子チェーザレや娘ルクレツィアを自らのおいやめいと称し、バチカンの要職につかせたり大貴族に嫁がせたりした。

 一方、ドイツ南部レーゲンスブルクのカトリック教会の少年聖歌隊では今月18日、1990年代初頭までの約60年間に、500人以上の少年らが暴力や性的虐待を受けていたことが明らかになった。世界各地のカトリック教会でも同様の疑惑が指摘されており、特異な制度の影を浮き彫りにしている。

 正直に愛する女性と結婚し、教会を追われた元司祭はイタリアだけで4千人、全世界では10万人とも推定される。先ごろ、妻帯者である元司祭の一部が、法王フランシスコに「復権」を請願した。彼らこそ、信者の人生を最も理解できるものであると思うのだが。

坂本鉄男

(2017年7月23日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 恐怖! 銃器保持者は12.5人に1人 隣人の懐にもピストルが…?

 最近の刑法改正で、正当防衛が「程度」を越えたと判断された場合の「過剰防衛」の罪が軽くなり、護身用の銃器所持許可証の申請が急増しているという。イタリアでは、犯罪歴がなければ、貴金属商や銀行警備員のほか、クレー射撃選手や狩猟愛好家に対し、それぞれ護身用ピストルやライフル銃などの所持が許可されている。

 銃器所持許可証を持つイタリア人は全国で約480万人。彼らが所持するピストルやライフル銃の数はなんと、1千万~1200万丁の多きにのぼると推定されている。2016年のイタリアの人口は約6千万人だから、計算上では赤ん坊を含め12・5人に1人は銃器所持の許可を受け、実際に所持していることになる。

 こうなると、混雑した電車やバスに乗ったら隣に立っている人がポケットにピストルを忍ばせている、という状況もまったく不自然ではないことになる。

 この点、日本は安全だ。16世紀の豊臣秀吉の「刀狩令」以降、一般人の武器携帯は基本的に許されず、今日に至っている。銃器の不法所持の罰則も日本は「1年以上10年以下の懲役」だ。しかし、イタリアでは3カ月から1年までの拘留とはるかに軽い。銃器の取り締まりは厳しいに越したことはない。

坂本鉄男

(2017年7月16日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 「イタリア便り」 難民問題にのんきな日本人

 難民問題を本当に理解していない日本人は幸せだ。イタリア政府は2016年に約20万人、今年は想定22万人と年々増え続ける難民問題で音を上げ始めている。鳥取県の人口が約60万人弱。わずか数年の間に日本の小さい県の人口と同じ位の数の難民が押し寄せたとき、日本がどう対処できるか考えてみるといい。

 もともとドイツの主導で欧州連合(EU)が「人道的救済と受け入れ」を決めたのは、トルコからギリシャを経由し中欧と北欧を目指して逃げてくるシリアからの難民であった。ところが、EUの受け入れを知った政情不安定なアフリカ各地からの多数の難民が、リビア北岸から地中海を渡り、イタリアへと押し寄せてきたのである。

 地中海上ではイタリア海軍と沿岸警備隊の艦船に加えて、「国境なき医師団」などEU各国の民間の人道的救済団体の船舶も積極的に難民を救出。イタリア南部の港湾都市では、受け入れ態勢が飽和状態になっている。難民の中には、北アフリカで洗脳されたテロリストが潜伏している可能性もある。

 EUは早急にアフリカ難民をリビアで食い止める手を打たなければならない。日本も今のうちに、日本海を渡ってくるかもしれない難民の問題を真剣に考える必要がある。

坂本鉄男

(2017年7月9日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り マフィアボスの受刑者どうする…罪を憎んで人を憎まず?

シチリア・マフィアのボス中のボスとして君臨したサルバトーレ・リイーナ受刑者をめぐる議論が現在、イタリアで沸き立っている。マフィア仲間のみならず、元憲兵総司令官からマフィア担当の敏腕検事、その護衛の警察官を含む、数十件の殺人事件の首謀者として20以上の終身刑(イタリアには死刑は存在しない)を宣告された「凶悪犯」。1993年に逮捕され入獄し、80歳を超えて現在は病気療養中だ。

彼は、逮捕されるまで24年間にわたり警察の目を逃れ、その間もマフィアを指揮し、罪を犯し続けた。逮捕後も司法当局の捜査に協力することはない。

 だが、最近、最高裁判所の判事の一部から「いくら重罪犯でも高齢で重病なのだから最後は自宅で死なせるべきでは」との意見が出た。すぐに、これに対する反論がわき起こった。<br /><br /> 犠牲者の家族や捜査当局者の間では、数十年にわたり国家権力に対抗して凶悪な犯罪を重ねてきた者に対し、国家が科した罰を最後まで負わせるべきだとの意見が圧倒的に多い。

日本でも犯罪者の権利を重んじて、被害者の家族の心情などを軽んじる判決や意見が多いとの指摘がある。「罪を憎んで人を憎まず」。犯罪者が真に悔悟したときにのみ、使うべき言葉ではないだろうか。

坂本鉄男

(2017年6月25日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り
最初に溺死するのは子供たち…粗製ボートで地中海渡った6000人の未成年難民

冬の海が荒れる時期が終わり、波が穏やかな夏が近づくとアフリカのリビア沿岸から大量の難民がイタリアを目指して地中海を渡ってくる。昨年の難民到着数は18万人だったが、今年はこれまでの最高記録の20万人に達すると予想されている。イタリア自体が就職難を抱え、他のEU諸国にもこれだけの難民をタダで養う経済的余裕はない。

彼らアフリカ難民は、リビア沿岸の渡航斡旋(あっせん)業者に1人当たり約1000ドルを渡し、100人以上が乗ることができる大型ゴムボートにすし詰めにされて地中海に押し出される。しかも、ゴムボートは粗製乱造で約10時間後、つまりイタリア沿岸に着く前に沈没するものが多いといわれ、結局、イタリアの沿岸警備艇と民間援助隊の船舶が救出している。

 難民の中には、子供だけでもヨーロッパに逃れさせたいと思う親も多く、昨年だけでも誰も付き添いがいない未成年者が6000人もいた。ボートが転覆するときは、最初に溺死するのはこの子供たちである。

 難民流出を防止するには、リビア沿岸に拠点を置き巨万の富を築く悪徳業者の一掃が必要だ。だが、リビア側の積極的協力がないため、今夏も地中海を舞台にこうした業者が横行し、大勢の子供の命を奪い続けるだろう。

坂本鉄男

(2017年6月11日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 「海栗」食べるなら日本

俳句の春の季語にもなるほど、日本人のようにウニを好んで食べる国民はいない。昔は日本中の磯で取れたものが、今や国産は1割であとは輸入物というからびっくりする。

 ウニの漢字表記にしても、主として生のものを指す「海胆」と「海栗」の他に、日本人が酒のさかなによく口にするアルコール処理をした瓶詰の「雲丹」まで3種類もある。

 表題に「海栗」を選んだのは、イタリア語のウニの名称「リッチ・ディ・マーレ」(海のハリネズミ)とイガグリのイメージが似ており、外見上一番ふさわしいからである。

 日本では魚屋にもすし屋のケースの中にも、きれいに箱詰めにされた大きなバフンウニが並んでいるが、イタリアでは輸入物のネタを使うすし屋で時折見かけるだけで、普通はお目にかかれない。イタリアの海で取れ食用にされるのは、一種の小型ムラサキウニだけで中身は極めて少量だ。

 10年ほど前、知人がサルデーニャ島の屋台で約40個のウニを割らせ、中身だけを瓶に詰めてきてくれたが量はわずかであった。シチリア島などの海辺のレストランで時々「ウニであえたスパゲティ」に出合うこともあるがまれである。

 ウニのシーズンが来ると、つい「日本ならうまい生ウニが食べられるのに」と思ってしまう。

坂本鉄男

(2017年6月4日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)