坂本鉄男 イタリア便り
最初に溺死するのは子供たち…粗製ボートで地中海渡った6000人の未成年難民

冬の海が荒れる時期が終わり、波が穏やかな夏が近づくとアフリカのリビア沿岸から大量の難民がイタリアを目指して地中海を渡ってくる。昨年の難民到着数は18万人だったが、今年はこれまでの最高記録の20万人に達すると予想されている。イタリア自体が就職難を抱え、他のEU諸国にもこれだけの難民をタダで養う経済的余裕はない。

彼らアフリカ難民は、リビア沿岸の渡航斡旋(あっせん)業者に1人当たり約1000ドルを渡し、100人以上が乗ることができる大型ゴムボートにすし詰めにされて地中海に押し出される。しかも、ゴムボートは粗製乱造で約10時間後、つまりイタリア沿岸に着く前に沈没するものが多いといわれ、結局、イタリアの沿岸警備艇と民間援助隊の船舶が救出している。

 難民の中には、子供だけでもヨーロッパに逃れさせたいと思う親も多く、昨年だけでも誰も付き添いがいない未成年者が6000人もいた。ボートが転覆するときは、最初に溺死するのはこの子供たちである。

 難民流出を防止するには、リビア沿岸に拠点を置き巨万の富を築く悪徳業者の一掃が必要だ。だが、リビア側の積極的協力がないため、今夏も地中海を舞台にこうした業者が横行し、大勢の子供の命を奪い続けるだろう。

坂本鉄男

(2017年6月11日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 「海栗」食べるなら日本

俳句の春の季語にもなるほど、日本人のようにウニを好んで食べる国民はいない。昔は日本中の磯で取れたものが、今や国産は1割であとは輸入物というからびっくりする。

 ウニの漢字表記にしても、主として生のものを指す「海胆」と「海栗」の他に、日本人が酒のさかなによく口にするアルコール処理をした瓶詰の「雲丹」まで3種類もある。

 表題に「海栗」を選んだのは、イタリア語のウニの名称「リッチ・ディ・マーレ」(海のハリネズミ)とイガグリのイメージが似ており、外見上一番ふさわしいからである。

 日本では魚屋にもすし屋のケースの中にも、きれいに箱詰めにされた大きなバフンウニが並んでいるが、イタリアでは輸入物のネタを使うすし屋で時折見かけるだけで、普通はお目にかかれない。イタリアの海で取れ食用にされるのは、一種の小型ムラサキウニだけで中身は極めて少量だ。

 10年ほど前、知人がサルデーニャ島の屋台で約40個のウニを割らせ、中身だけを瓶に詰めてきてくれたが量はわずかであった。シチリア島などの海辺のレストランで時々「ウニであえたスパゲティ」に出合うこともあるがまれである。

 ウニのシーズンが来ると、つい「日本ならうまい生ウニが食べられるのに」と思ってしまう。

坂本鉄男

(2017年6月4日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り サンタのロシア訪問

  イタリア南部バーリ市の大聖堂から聖ニコラ(ロシア正教では聖ニコラウスやニコライ)の遺骨を納めた聖櫃(せいひつ)が21日、ロシアに運ばれ、モスクワの大聖堂で公開された。多数の正教徒が礼拝のため訪れている。

  昨年2月、ローマ・カトリック教会の頂点に立つローマ法王フランシスコとロシア正教会の最高位キリル総主教が1054年のキリスト教会の東西分裂以来となる歴史的会談を開催。聖櫃のロシア歴訪は、両者の間で決められた。

  カトリック・ロシア正教・プロテスタントを含む全世界のキリスト教徒の間で、聖ニコラほどその名を知られている聖人はいない。例えば、サンタ・クロースの名前もこの聖人のオランダ語読みから出ているといわれる。

  小アジアのギリシャ人の町ミュラ(現在のトルコ)の裕福な家庭出身の司教。慈悲の心と高徳、船乗りを守る奇跡は、中近東からヨーロッパまで有名であった。1087年、この聖人の町がイスラム教徒に占領されそうになったとき、バーリの船乗り67人が遠征して聖人の遺骨を持ち帰り、町の大聖堂に安置したとされる。

  2007年に開催されたバーリでの伊露通商会談中、ロシアのプーチン大統領は非公式にこの聖人の礼拝に訪れたという。

坂本鉄男

(2017年5月28日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 来月G7開催「タオルミーナ」の魅力

来たる5月26日と27日の両日、先進7カ国サミットがイタリア南部シチリア島の国際的観光地タオルミーナで開催される。

昨年、レンツィ前伊首相がシチリアのこの地を選定した理由は、イタリア政府観光局が宣伝ポスターに使ったほどの景勝地であるほか、地中海を渡りシチリアに押し寄せる難民問題にも利用できるためだ。

また、海からほぼ垂直に200メートルの山上に広がる小さな町であるため警備がしやすいことも理由の1つにある。それだけに交通の便の悪さと、限られた数の宿泊施設には各国代表団および報道関係者は頭を悩めるに違いない。

タオルミーナは紀元前約350年に古代ギリシャ植民地に、次いで古代ローマの植民地になった。町の外れの崖の上には、有名な古代ギリシャ劇場跡が残っている。ここからは、足下に紺碧(こんぺき)の地中海と遠くには2000年以上前から噴煙を上げ続けるヨーロッパ唯一の活火山エトナ山を望むことができる。

現在でもこの劇場跡では、夏季の演劇祭や映画祭が行われ、多数の観光客を集めている。

私にとっても、昔、メッシナ市のロータリークラブとローマ日本大使館の要請でこの町で一番有名なホテルで「日本経済発展の秘密」の題で講演したこともある思い出深い土地でもある。

坂本鉄男

(2017年5月21日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 同性婚の認可1年 蓋を開けてみれば…

イタリア下院が昨年5月11日、長年にわたって激論してきた同性婚の認可に踏み切ってから1年が経過した。

イタリアの有力紙が最近、役所にこの1年に届けられた同性婚の大体の総数を発表したが、あれだけ同性婚の公認を訴えた人が多かった割には実際の同性婚数はそれほど多くなかった。

法案が通過してから昨年12月末までが2430組、今年3月までの3カ月間は370組で、総数は2800組。イタリア全体では、考え方が進歩的といわれる北部と中部が合計2500組で、保守的な南部では300組にすぎなかった。

結婚とは男女が結ばれて家族を作るためのもの」として、同性婚には絶対反対だったカトリック教がかつて国教として圧倒的な力を持ってきたイタリア。その反動も小さくないはずだが、蓋を開けてみれば他の国々と同じであることが判明した。

つまり、最近のイタリア人男女も「正式な結婚より同棲(どうせい)」を選ぶものが多く、「束縛を受ける結婚より自由な独身」と考える世代が激増しているだけに、同性同棲者も無理に形式的な結婚を考えなくなっているわけだ。

いずれ日本でも同性婚を正式に認めざるを得ない時代が来ると思われるが、さて、どうなるか。

坂本鉄男

(2017年5月14日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 入れ墨は市民のおしゃれ? ローマ市だけで工房900軒

イタリアでは、タトゥー(入れ墨)は「怖いお兄さん」たちだけがするものと思う時代は過ぎ去り、一般市民のおしゃれの一種になってきた。プロサッカー・セリエAの試合を見ていても、ひじょうに多くの選手が腕に大きな入れ墨をしているし、テレビのクイズ番組に出場する奇麗な娘さんの中にも、肩や腕に小さな入れ墨をしているのを見かけることが多くなった。

最近の地元紙の報道によると、ローマ市だけで実に900軒の入れ墨工房があり、世界の大都市の中でも人口の割合に比べこれほど入れ墨工房が多い都市は少ないらしい。

有名サッカー選手を顧客にしているような彫師になると、半年から1年先まで予約がいっぱい。2~3時間で彫り終わる小さな入れ墨でも代金は200ユーロ(約2万4千円)以上はするという。

また、有名な入れ墨工房では、彫ったことを後悔する顧客のために除去手術の専門家も紹介するというが、レーザーによる施術料はかなり高いようだ。

なにしろ、民間テレビで外国の入れ墨師コンクールを絶えず流しているのだから、今後も入れ墨ブームは盛んになるばかりだろう。

新聞によると物価統計に、彫り物代が入るかもしれないというから驚きである。

坂本鉄男

(2017年5月7日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り メーデーに食べるもの

「イタリアは労働に基づく民主的共和国である」

共和国憲法第1条がこう明記しているだけに、5月1日のメーデーは国民の祝日となっている。

ちょうど気候が温暖になってくる頃なので、ピクニックにも最適な祝日だ。ローマでこの日に欠かせない食べ物は「生のソラ豆と羊のチーズ」だ。

まだ初物のソラ豆は、大きくなっていないものをサヤからむき出して生で食べる。塩ゆでなどで食べることが多い日本人にとって、最初はやや青臭い感じがするが、慣れると甘みがあってうまい。

ソラ豆は新石器時代から地中海沿岸で栽培されていたといわれる。古代ギリシャ時代には消化に悪く、悪夢を見るものとして嫌われたが、後に精力増進によいとされ、花と春と豊穣(ほうじょう)をつかさどる女神、フローラにささげられたとされる。

これと一緒に食べるのは羊の乳で作る塩味のやや強いペコリーノチーズだ。高い栄養価と消化の良さ、長期の保存性から、遊牧民族だった古代ローマ人とは切り離すことができない食物だった。

メーデーの祝日に、家族と一緒に野外で生のソラ豆とペコリーノチーズを食べ、赤ワインを飲みながらバーベキューを楽しむローマ市民を見ると、夏の近さを感じる。

坂本鉄男

(2017年4月30日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 今年はローマ暦で2770年 皇紀で2677年って知ってました?

 伝説によると、ローマは紀元前753年4月21日、ギリシャ神話の英雄アイネアスの子孫で牝狼に育てられた双子の兄弟、ロムルスとレムスによって最初の町の輪郭がしるされたとされる。だが兄弟の主導権争いで、レムスが殺され、ロムルスが、その後7代続く王制ローマの初代の王となり、その名がローマのもとになったといわれている。

 もっとも、この年月日の「決定」は簡単でなかった。初代皇帝アウグス帝時代の多くの歴史家などが神話や伝説を調べ、最後は天文学者が月日を割り出した。この説に従うと今年の4月21日はローマ暦で2770年になるわけだ。

 日本にも昔は初代天皇の神武天皇の即位の年、紀元前660年2月11日から数える皇紀という年号があった。日本の歴史がいかに長いかを内外に喧伝(けんでん)する方法に使われ、「建国記念の日」の2月11日は、かつては紀元節と呼ばれた祝日であった。

 この皇紀によると2017年の今年は、皇紀2677年に当たる。

 第二次大戦終了までの日本の学生たちは、歴史を習うのに西暦年号、日本の皇紀、元号(現在の平成)を覚えるという複雑な努力をしたものだった。だが、たとえ伝説にせよ、こうした年代の数え方が存在するのを知るのも一興であろう。

坂本鉄男

(2017年4月16日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 家族構成、様変わり

 最近のように同性結婚が許され、しかも、縁もゆかりもない代理母の胎内を借りて子供を産むことも認められる世の中になると、家族を構成する人々をなんと呼ぶべきか、ワケが分からなくなってきた。

 北イタリアのトレント市で3月初旬、カナダで同性結婚した男性2人が、片方が提供した精子を用いて代理母が出産した双子の親権を求めて争った裁判があった。判決は、「2人はともに双子の父親である」だった。

 昔風に厳密に考えれば、「双子の本当の父親は精子を提供した男性1人だけ」であり、もう片方の男性については、父親の配偶者の男性とでも言うべきなのだろうに。

 この画期的(?)ともいうべき判決の後、英国で同性結婚し、代理母による出産ではなく普通の手続きで2人の子供を養子にした男性カップルに対し、フィレンツェの裁判所が同等の父権を与えた。

 子供がお父さんを呼ぶ際には、「ボブお父さん」や「ジョージお父さん」などと呼べば混乱は避けられる。

 世間の慣習と極端に違った生き方はしない方が無難だなどと言ったら、同性婚者から「大きなお世話だ。お前の考え方は古い」と、お叱りを受けるかもしれぬ。

坂本鉄男

(2017年4月9日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 同胞に「各自5人子供を産めばヨーロッパの未来担える」 トルコのエルドアン大統領

 国籍の取得は大きく分けると「血統主義」と「生地主義」の2つに分類される。日本は「血統主義」をとっており、生まれる場所とは関係なく、原則として父母から、または片親から受け継いだ血統関係によって国籍が定められる。

 一方、「生地主義」の代表的な国は米国で、たとえば日本人夫婦が米国で子供を産めば、その子は自動的に米国籍をも取得する。米国が多民族国家であるゆえんである。最近、欧州連合(EU)諸国も「生地主義」が多い。

 先日、トルコ人移民の多いオランダの国会選挙に際して、移民反対を掲げた極右政党に対抗し、反対演説のため国会議員を派遣しようとして拒否されたトルコのエルドアン大統領は、移民反対の政党を「ナチス」呼ばわりし、欧州在住のトルコ人に向けて、次のようなメッセージを送った。

 「諸君は、(軽蔑されないために)立派な住宅地に住み、恥ずかしくない車に乗り、各自が3人と言わず5人の子供を産め。そうすれば、諸君はヨーロッパの未来を担う人間になれる」

 まさに子だくさんのイスラム教徒の現状と「生地主義」のスキを突いた遠大な計画である。日本も「少子化」と「片親が日本人なら」の血統主義のスキを突かれませんように。

坂本鉄男

(2017年4月2日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り もしも、東京で「北方領土は日本領でない」と書いたビラを貼ったら… 一旦領土失うと復帰は困難 割譲された南チロルの教訓に学ぶべき

 もしも、東京のど真ん中で「北方領土は日本領でない」と書いたビラを貼ったら、人々から「親ロシア派の外国人か」と思われるに違いない。ところが、イタリアでは、ローマ市の真ん中で赤・白・赤のオーストリア国旗の上に「南チロルはイタリア領ではない」と印刷したビラを貼ろうとした「イタリア人」の一群がいた。彼らの行為は警察当局に止められたが、その後、彼らが訴えを起こしたローマ行政裁判所は、「ビラの内容は国を著しく侮辱するものでなく、イタリア憲法にも抵触しない」と貼付許可の判断を下した。

 第一次大戦で敗戦国となったオーストリアは、サン・ジェルマン条約により、戦勝国イタリアにアルプス山脈の南北に広がるチロル地方の南側を含むアルト・アディジェ地方その他を割譲した。だが、もともとオーストリア住民であった南チロルの住民の一部は、オーストリア復帰を狙って武装テロを含むいろいろな行動をとってきた。今回の「南チロルはイタリアではない」とのビラを貼ったのもその運動の一つである。

 イタリア政府もこうした住民の懐柔策として、ドイツ語も公用語とするなど特権を与えてきたが、100年近くを経た今もオーストリア復帰運動は絶えない。一旦失った領土の復帰がいかに難しいかを学ぶ教訓でもある。

坂本鉄男

(2017年3月26日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り ホワイトデーに思う 聖バレンティーノにふさわしい肩書は

 いつも思うことだが、日本人は勤勉であるだけでなく、優れた創造力を持っている。2月14日の聖バレンティーノ(聖バレンタイン)の祭日に、カトリックとは縁もゆかりもない日本の女性の間に、男性にチョコレートを贈る習慣を定着させた日本の製菓業界の商魂は見事である。

 そればかりではない。聖人とは全く関係のない1カ月後の3月14日を、「チョコレートを贈られた男性が、女性にお返しを贈るホワイトデー」にしたアイデアには、ただただ脱帽してしまう。

 聖バレンティーノはローマから北東に約100キロの田舎町テルニで生まれ、カトリック教徒迫害時代の3世紀にローマで布教した。年については異説が多いが、269年2月14日、ローマの北の出口のフラミニア街道で斬首され、殉教したという。

 もともと、この聖人は日本で考えられるほど有名でなく、子供や家畜、てんかん病患者、養蜂家の守護聖人とされてきた。恋人たちの守護聖人となったのは、13世紀ごろといわれる。

 さまざまな分野で守護聖人と称される聖バレンティーノだが、今日、一番ふさわしいのは、「日本のチョコレート関連企業の守護聖人」の肩書ではないだろうか。

坂本鉄男

(2017年3月12日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 安楽死選んだ有名DJ

 イタリア北部ミラノ近郊で名の知れたディスクジョッキー、通称ファーボ氏(40)が2月末、ジュネーブ近郊の安楽死専門病院で幇助(ほうじょ)付き自殺を遂げた。

 ファーボ氏は4年前の6月のある夜、自動車事故を起こし、失明と四肢のまひに加えて絶え間ない激痛という後遺症を背負うことになり、生きる望みを断たれた。だが、イタリアには延命治療措置の放棄を希望する遺言制度がなく、安楽死援助団体のサポートでスイスへ「自発的自殺の途」についたわけである。

 スイスには毎年約200人のがん末期患者を主体とするイタリア人が安楽死を求めて赴くが、スイスの病院側の厳しい審査と話し合いの結果、40%が再び帰国するといわれている。

 安楽死専門病院は人道的見地から措置を施すのであって、決して営利目的で安易に受け入れているわけでない。また、イタリアの刑法には禁錮5~12年の「自殺幇助罪」があり、公然とスイスに付き添っていくことはできない。

 だが、今回の一件の影響は大きく、世論調査機関AWGによると、20年前のイタリアで「安楽死」への賛成は僅か10%だったのに対し、今回は条件付きを含め74%が「賛成」と答えた。

 国会も長い間たなざらしにしてきた「安楽死関連法案」を近く審議する予定となった。

坂本鉄男

(2017年3月5日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り スロットマシンの中毒性にはまる若者… 広がるギャンブル依存症

 ローマのわが家の近くに、1階が菓子屋で、地下がワイン専門というとても繁盛した店があった。経営者の母親と中年の息子と親しくなり、クリスマスにはいろいろな菓子とワインを詰めた箱をプレゼントされたこともあった。

 ところが、ある日突然、店が金物店に改装されたのである。情報通の理髪店の話では、真面目そうに見えた息子が賭博常習者で、借金で店を手放さざるを得なくなったとのことだった。

 イタリアではアルコール依存症が400万人以上、麻薬常用者が45万人、賭博常習者が60万人と推定されている。中でも、最近問題になっているのは、町中至る所にあるスロットマシンなど賭博機を備えたゲームセンターに入り浸る若者だ。

 日本でも、大手製紙会社の御曹司の賭博による巨額な損失や、芸能関係者や元スポーツ選手の麻薬使用のニュースが新聞をにぎわしたが、麻薬も賭博も一度手を染めると、抜け出すのは難しい。

 賭け事好きが多いイタリアには3カ所だけ公認賭博場が設けられ、あとは国外の賭博場に行ってもらうことになる。日本では国会でカジノ解禁法が成立したそうだが、日本人は果たしてギャンブル依存症への免疫性を持っている国民なのだろうか。

坂本鉄男

(2017年2月26日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 頻発する地震で揺らぐ「ある故事」とは

 先月18日の午前と午後、ローマは計4回の地震に見舞われ、地震に慣れていない市民はビックリ仰天した。震源地は昨年の連続地震と同じく約100キロ東のアペニン山脈の麓。スキー客が宿泊するホテルが地震による雪崩に見舞われる惨事も起きた。

 英国生まれの大学者でカトリックの聖人、ベーダ(673~735年)は、「コロッセオが倒れるときはローマも倒れる。ローマが倒れるときは世界も倒れる」と言ったそうだ。

 ローマ第一の観光名所コロッセオは、完成後2千年間に起こった数々の地震のため、最上層と3層目の半分以上が崩壊している。だが、巨石とれんがを積み上げ、重みに強いアーチ構造を駆使して建てたものだけに、現在残っている部分が今後も容易に倒壊するとは思われない。

 ローマ直下に地震帯は走っていないが、地下の地質は沖積層で地震の震動を伝えやすいといわれる。しかも、ローマの近くには東方のアペニン山脈の地震帯に加え、南と北の50キロしか離れていない地震帯もある。

 現代のローマは耐震建築が少ないため、万が一、大地震が起きたら、ベーダの言葉とは違って、「コロッセオは残ってもローマは倒れる」事態になりかねない。

坂本鉄男

(2017年2月19日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 1億2000万円超投じた鉄道模型を公開へ フィレンツェの侯爵、趣味高じて

 余暇に趣味の模型作りに興じる人は案外多いらしい。特に洋の東西を問わず汽車の模型が好きな男性は多いようだ。

 フィレンツェのサン・ジュリアーノ侯爵(84)もその一人。シチリア島に広大な農場を所有し、800年の歴史を誇るお金持ちで、15年間の歳月と100万ユーロ(約1億2千万円)以上を投じて総面積300平方メートルの模型汽車パークを作り上げた。

 設計技師、機械専門家を含めた5人の仲間とともに、ヨーロッパ中の著名模型汽車の展示場をめぐり、参考にして作っただけに、精巧極まるものだという。

 同パークでは、ミラノの中央駅、ベルリンの中央駅などの模型はもとより、景色にも細心の注意を払って、北伊のドロミーティ山系、中伊のトラジメーノ湖などを再現。実際に走行する模型列車も、ヨーロッパの主要列車のほか、オリエント・エクスプレスなども含まれ、愛好者の垂涎(すいぜん)の的となるものらしい。

 現在はフィレンツェ郊外の侯爵邸の敷地内にあるが、年内にはフィレンツェの真ん中に購入済みの元映画館の中に移して、一般公開するという。

 これでフィレンツェの名物が新たに1つ増えるわけだが、大人の趣味も高じれば町の観光に役立つわけである。

坂本鉄男

(2017年2月12日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り イタリアで出没する「チーズ泥棒」1つ27キロの石臼型パルミジャーノをトラックに… 力のいる泥棒稼業

 スリやひったくりは技術や脚力が武器で、特段力を必要としない。だが、世の中には力がなければできない泥棒稼業もある。

 日本にはかつて、食糧不足の時代に「米泥棒」が存在したが、1俵は60キロだったから、今の泥棒はとても盗んで走れないだろう。

 最近イタリアでは、米泥棒ならぬ「チーズ泥棒」があちこちに出没し、酪農業者を悩ませている。夜間にトラックで乗り付け、倉庫に保管しているパルミジャーノの「フォルマ」を大量に盗んでいくのだ。

 パルミジャーノは、日本の店ではたいてい、小さな塊に切ったものや粉状にすり下ろしたものしか見られないが、でき上がったばかりのパルミジャーノは大きな石臼形だ。これがイタリア語で「フォルマ」と呼ばれる。

 フォルマの重さは平均40キロだから、食事制限に気を使う最近の若いイタリア娘の平均体重の50キロに近い。

 値段は卸値で1つ当たり350ユーロ(約4万円)程度。これが最近2年間に2万個以上盗まれたという。

 特に狙われるのは、2年以上熟成させた比較的高価なもので、1つ約27キロ。トラックで逃げるとはいえ、大量に積み込むにもそれなりの力が必要だ。

坂本鉄男

(2017年2月5日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 相次ぐ地震などで自国の対応に精いっぱい…難民問題は「底なし沼」の様相

 エジプトやリビアの沿岸から2016年、地中海を渡ってイタリアに到着したアフリカ出身者をはじめとする難民や移民は18万人を超えた。

 人道的見地から難民を救うという欧州連合(EU)の政策は正しい。だが、イタリアは相次ぐ地震の被災者や生活困窮者を多数抱えていて、難民保護施設での対応はとても十分とはいえない。

 1月初旬にも北部ベネト州の小村(人口190人)にある1500人収容の難民収容所で、救急車の到着が遅いためアフリカ女性が死亡したと抗議する暴動が起きた。住民に対して難民が多すぎるとして、政府がほかの収容所に一部難民の受け入れを打診したところ、ほとんどが拒否した。

 幸い今までイタリアではイスラム過激派によるテロは起きていないが、警察は警戒を強めている。大勢の難民の中にテロリストが潜んでいる恐れはあるし、刑務所内の外国人約2万人の半数はイスラム教徒だ。社会に不満を抱く彼らがいつの日か、過激派の誘惑を受ける可能性はある。

 シリアでの内戦やアフリカ部族間紛争は当面、終結の見込みがないだけに、今後どれだけの難民が押し寄せて来るか分からない。問題は底なし沼の様相を呈している。

坂本鉄男

(2017年1月29日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 東京で12月10日投函の年賀状がローマ到着が1月17日! 働け、地方公務員

 東京で12月10日前後に投函(とうかん)された年賀状が、1月17日にたくさん届いた。イタリアに到着後の配達の遅れによるものだ。

 ローマまで1カ月以上の郵便とは「アフリカ並み」と言ったらアフリカ諸国に怒られるかもしれない。

 イタリア人は「怠け者」といわれるが、個人商店や私企業の従業員は非常に勤勉だ。問題なのは地方公務員だ。

 1月上旬の有力日刊紙「レプブリカ」によると、シチリア州の州都パレルモ市では、道路清掃・ゴミ収集係の270人が健康上の理由で外で働かず、市に雇われている400人が「運転不適格」の運転手や、門衛しかできない名ばかりの庭園係である上、いずれも医師の診断書提出者だという。一体なぜ不適任者を採用したのか不思議になるが、いい加減な診断書を乱発する医師にも問題がある。

 また、北部のミラノ市では明け方の3時から午前8時まで生鮮食品市場を監督する検査官5人のうち4人が「夜間勤務不適当」の医師の証明書を提出しているという。

 こうした状態は組合の力が強いローマ市も同じだ。せっかく市民が市政改革を願って選んだ「五つ星運動」出身の市長も無能で、市営交通もゴミ処理も一向に改善しない。

坂本鉄男

(2017年1月22日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 日本とイタリアの料理比較… 一番異なるのは何?

 日本とイタリアのテレビの料理番組を比較して一番違うのは使う肉類の種類と量である。

 日本の料理番組で使うのは豚の三枚肉やひき肉数百グラムといったところだが、イタリアでは牛・豚・鶏のほかハム・サラミなど加工品をふんだんに使う。

 実際、食肉の日本人の1人当たりの年間平均消費量は、統計がやや古い2009年度で牛肉5・9キロ、豚肉11・5キロ、鶏肉11キロ。3種で合計28・4キロだった。

 これに対し、14年のイタリアでは、牛肉20キロ、豚肉(ハム・サラミなど原料に使われるものを含めて)37・3キロ、鶏肉19キロの合計76・3キロであった。

 この数字を見ると、日本人の1人当たりの年間食肉消費量は、まだ貧しさから抜け出す途中であった40年前のイタリアの27キロにほぼ等しいことになる。

 日本では魚肉ソーセージがあるが、イタリアではソーセージといえば豚肉以外は考えられない。

  もちろん、食肉の消費量が食卓の豊かさを表すものではない。イタリアではカキやホタテの貝柱は高価で一般家庭ではなかなか手が出ないが、日本では庶民でも食べられる。

 最近、日本ではイノシシやシカの農作物被害が増大しているが、イノシシやシカの肉は料理してもハムにしてもうまい。研究の余地ありだ。

坂本鉄男

(2017年1月15日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)