坂本鉄男 イタリア便り 「無原罪の御宿り」と「受胎告知」の誤解

12月8日はカトリック教徒にとって重要な「無原罪の御宿り」の日で、かつてカトリックを国教としていたイタリアでは今も祝日である。

 旧約聖書によると、人間の始祖アダムとエバは、神の命に背きヘビに誘われて「禁断の実」を食べ(つまり原罪を犯し、現代風に言えば性交をして)楽園を追われ、以後、アダムとエバの子孫の人間は子供をつくり汗水流して働かざるを得なくなったとされている。

 一方、神の母である聖母マリアは原罪を犯すことなく聖霊を身籠もりイエス・キリストを生んだとされるのだが、無原罪の御宿りの日である12月8日に聖霊を身籠り、25日のクリスマスにイエスを産んだと考えるのはよくある誤解である。

 カトリックはマリアがこの日に聖霊を身籠もったと教えていない。12月8日はマリアが原罪なしに生まれてきたとする教義「無原罪の御宿り」を祝う日だ。

 では、マリア自身が身籠もったのはいつか。それはルネサンス期の大画家が好んで描いた「受胎告知」のあった3月25日とされる。大天使ガブリエルのお告げによりマリアが精霊を身籠もったことを知る日だ。クリスマスの9カ月前で、マリアの妊娠期間は普通の女性とさほど変わらない。3月25日を祭日にしていたら、こんな誤解は起きなかっただろう。

坂本鉄男

(2020年12月1日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)