坂本鉄男 イタリア便り 詐欺師に注意! 「トレビの泉」のケチくさい話

昔、イタリアの喜劇映画には大体こういう筋書きの小話があった。

 ローマを訪れる観光客にならって米国の富豪が「トレビの泉」を眺めながら叫んだ。「わが大アメリカに欠けるのはまさにこうした遺跡だ」。すると、どこからとなく貴族然とした老紳士が現れ名刺を出した。見ると「トレビ大公爵ジュリアス・シーザー14世」とある。

 いくら歴史の重みに弱い米国人でも驚いた。老紳士は続けてこう吹っかけたのである。「昨日もブラジルの富豪がこの泉を200万ドルで売ってくれと申し出たのですが、私はアメリカびいきだ。あなたくらいなら半額の100万ドルでお譲りしましょう」。

 話の結末は忘れたが、最近の「泉」をめぐる話はケチくさい。

 地元紙によると、少し奥まったところにある泉には5方向から小道がある。どの小道の両側にも土産物屋が軒を連ね、観光客を目当てにしている。ところが道しるべの標識が曲げられたり汚されたりして、特定の店に導くようになっているというのだ。この知らせに市役所も新しい標識を付けるなど対策を講じ始めた。

 日本でも間もなく東京五輪・パラリンピックがある。大勢の観光客を前にして詐欺師まがいの手口で「ぬれ手でアワ」をもくろむ連中が出てこないとも限らない。

坂本鉄男

(2020年3月4日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)