坂本鉄男 イタリア便り 原発先進国だった過去

 イタリアが過去20年余にわたり、先進国中数少ない原発非稼働国であるという理由で、原子力エネルギー利用の“後進国”と思う人がいるから困る。むしろ原発先進国だったからこそ、最初に原発から手を引いたのである。実際、1966年には3基の原発を保有し、国内電力需要の3~4%をカバーする国として米英に次ぐ3番目の原発先進国であった。また、70年と82年には、4基目と5基目の原発建設が開始されていた。

 ところが、79年に米国でスリーマイル島の原発事故が起こり、86年には旧ソ連でチェルノブイリ原発事故が発生した。イタリアはこの事故を教訓に87年の国民投票で「脱原発」に踏み切ったわけだ。

 だが、脱原発により、国民はEU内で一番高い電気料金を負担することになり、国際競争力の低下を恐れた産業界から、原発再建の強い要望があったため、ベルルスコーニ内閣が原発再建を計画したのである。

 6月の国民投票では、福島第1原発事故が世論に大きな影響を与え、「脱原発」は再確認された。だが、15年ぶりに国民投票が成立したのは、投票者の多くが「原発」よりも、投票項目の「水道事業の民営化案」と「それに伴う料金の改定認可案」への反対投票に赴いたためであることを知るべきである。

坂本鉄男
(7月10日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)