坂本鉄男 イタリア便り カモメ舞うローマ

 夏の青い海の波間に浮かんだり、水面すれすれに飛んだりする白いカモメの姿は誠に愛くるしい。この美しいイメージから、高齢の人なら戦前・戦中に大流行した武内俊子作詞・河村光陽作曲の童謡「かもめの水兵さん」を思い浮かべるだろう。

 また、演劇愛好家ならチェーホフの名作「かもめ」が頭に浮かぶだろう。

 だが、カモメの食べ物は、その姿に似合わず動物や魚の死骸など汚いものが多い。このため、最近のローマ市のように市街地内外にゴミが山積するようになると、カモメがテベレ川を遡(さかのぼ)って、これまでの海辺から40キロ以上内陸部のローマ市中にすみかを移すようになった。この結果、今やローマ市内にねぐらを持つカモメの数は2万羽を超し、町の真ん中のパンテオン(万神殿)や大統領官邸から周辺の住宅地の屋根までカモメが巣を作ってしまう。

 それならば駆除すればいいのだが、カモメは保護鳥に数えられ、殺すことができないばかりか、卵も孵化(ふか)する前にしか除去できないことになっている。

 法に触れない唯一の撃退方法は強敵タカで追い払うことだ。だが、今どき「タカ匠」など見つからないため、今後のローマは「カモメの大都会」になる可能性が大きい。

坂本鉄男
(8月11日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)