坂本鉄男 イタリア便り 不可解な動機

去る5月6日、息子を見舞うためにフランス南部ニースの病院を訪れ、その後、車で去ろうとしたエレーナ・パストール夫人(77)が待ち伏せていた2人組にピストルを乱射され、運転手とともに死亡した。

ここまではよくある殺人事件だが、夫人はイタリア系祖先が築いた財産を持つモナコ一の資産家であった。

彼女の家族は、世界で最も土地が高いとされるモナコで多数のアパートやビルを所有し、その総資産は300億ユーロ(約4兆1千億円)と推定されている。

事件の捜査に当たったフランス警察はその後、襲撃犯を逮捕した。

その自供から首謀者が、夫人の娘(53)の同棲(どうせい)相手で、夫人のおかげでモナコの有力実業家となったポーランド人であることが判明した。

夫人は息子と娘に毎月50万ユーロ(約6800万円)の“おこづかい”を渡していたというから、犯行は単なる金銭目的ではないという見方が強い。仮に息子側が夫人の遺産の4分の3を相続しても、娘の方も一生かけても使い切れない額の遺産が手に入るはずだったという。

この逆“玉の輿(こし)”に乗ったポーランド人がなぜ夫人の殺害を企てたのか、庶民の頭では分からないというのがもっぱらの噂である。

坂本鉄男

(2014年7月27日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)