坂本鉄男 イタリア便り 真夏の祝日「8月15日」

15日は日本では「終戦の日」だが、イタリアではこの日は「聖母マリアの被昇天の祝日」に当たる。毎月のように祝日がある日本と違い、イタリアでは6月から11月までの6カ月間、この日以外は1日も祝日がない。宗教的な意義が失われてしまったとはいえ、真夏の貴重な祝日だ。

イエス・キリストの母マリアは、聖書によると14歳で処女懐胎し15歳で出産し、それからイエスがはりつけにされるまでの33年間、一緒に生活をしたと推定される。その後のマリアに関する消息は聖書の中には記載されていない。

だが昔から教会の歴史研究家たちは、イエスの死後12年間、60歳まで生き続けていたと考えている。当時としては非常に長命な方だったといえよう。

さて、聖母マリアの臨終が近くなると、各地で宣教していた十二使徒が枕頭(ちんとう)に集められ、次いで天国から降りてきたイエスに抱かれ、マリアの霊魂と肉体は天国に運ばれた(普通の人間の肉体は土に化す)のである。

イエスは神であったので自ら昇天したが、聖母はあくまでも普通の人間であったから、「昇天させられた」つまり「被昇天」というのである。

これを題材にしたベネチア派の巨匠ティツィアーノの名画は名高い。

坂本鉄男

(2015年8月16日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)