坂本鉄男 イタリア便り 枢機卿の広大な住居

ローマ法王は枢機卿の中から選ばれるように、枢機卿とはカトリック教会内の序列では法王に次ぐ高位聖職者である。

最近、法王庁内部の暴露本が出されたが、その中の話題の一つに前国務長官ベルトーネ枢機卿の住居がある。

清貧をモットーとするローマ法王フランシスコは、サン・ピエトロ広場を見下ろす建物に法王専用の住居兼執務室を持っているが、広くてぜいたくだとして執務にだけ用い、普段は法王選挙の際に世界中から集まる枢機卿のための宿泊施設の一室(50平方メートル)に住んでいる。

一方、ベルトーネ枢機卿は法王庁内で最も勢力があった人物だけに、自分のついのすみかとして、法王が住む宿泊施設の隣の建物の296平方メートルの最上階を選んだ。

だが、今回問題になったのはその広さではなく改修費の出所である。

実際、ベルトーネ枢機卿より古参の枢機卿でバチカン市国内およびその周辺のバチカン市国所有の建物に住む枢機卿の中には、400平方メートル以上の広大な住居に住む者が何人もいるのである。

清貧をモットーにする法王の出現で一番困っているのは、法王を選んだ枢機卿自身ではないか。

坂本鉄男

(2015年11月22日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)