坂本鉄男 イタリア便り 安全がタダではなくなってきた日本

既に40年以上前になるが、イザヤ・ベンダサンの筆名で山本七平氏が戦後の日本人論の傑作ともいうべき名著「日本人とユダヤ人」を書いた。その一節に「日本人は安全と水は無料で手に入ると思い込んでいる」という言葉があり、なんと当を得た言葉だと感心したことを思い出す。

2月末、わが家から50メートルも離れていない建物に家政婦と住む、かつての大物老政治家が夕方、家政婦が買い物に出たすきに2人組強盗に入られ、手足を縛られて金品を奪われた。

最近イタリアでは、費用を節約するため門番を廃止する建物が非常に多くなったが、老政治家の家も門番なしであった。幸い、わが家の建物の住民は門番を雇い続け、さらに地下のガレージや主要な入り口には防犯カメラも設置させたが、決して無駄ではないことが分かった。

日本はこれまで「世界で最も治安のよい国」といわれてきたが、最近夜道を歩いている人が暴漢に襲われる事件が多くなっている。また今後、不法入国者による犯罪増加も予想される。だが、防犯カメラや街灯は役所の担当と信じ、個人が自費で整備することは少ないようだ。

日本人は国防ばかりでなく、日常生活でも「安全と水はタダではない」ことをもう一度、肝に銘じるべきだ。

坂本鉄男

(2016年4月10日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)