坂本鉄男 イタリア便り 中国なら即刻解雇 良いのか悪いのか…遺跡・旧跡で繰り広げられる労働者ストライキ

 イタリアの新聞によると、2015年度に世界の著名な遺跡・旧跡の中で一番訪問客が多かったのは中国の「万里の長城」の1000万人であり、2番目がローマの「大円形競技場コロッセオ」の600万人であったという。

 イタリアをこよなく愛したフランスの作家スタンダール(1783~1842年)が、「ローマの中で最も素晴らしいもの」と称賛したように、ローマを訪れる観光客の必見の場所である。

 だが、昨年はコロッセオの守衛や切符販売係員など労働組合員による突然のストライキや、勤務時間内の臨時集会のため、どれほど多くの観光客が足止めや門前払いを食ったか分からない。万里の長城で同じようなことをしたら、中国の担当者たちは即刻、解雇されているだろうに。

 これは、5番目にランクされる「ポンペイの遺跡」についても同じことがいえる。世界から年間240万人が訪れるこの遺跡でも、昨年は労働組合員のストによって多くの観光客が長時間、門の外で待たされた。これら組合員は、あたかも遺跡が自分たち組合員の私有財産であるかのごとく振る舞っている。

 これからの観光シーズンに、昨年のような愚行が繰り返されないことを祈りたい。

坂本鉄男

(2016年5月1日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)