坂本鉄男 イタリア便り マフィアの別宅で見つかった「ゴッホ」

 さる9月下旬、ナポリから約30キロ離れたソレント半島の根元の町で、国際的麻薬取引犯の別宅に踏み込んだナポリ警察の捜査官は、無造作に掛けてあった2枚の絵に目を見張った。14年前の2002年12月、アムステルダムのゴッホ美術館で盗まれ、世界中で捜していたゴッホの作品ではないか。

 発見の報を受け、鑑定のためオランダから駆けつけた同美術館の館長が、時価1億ドル(約105億円)といわれる2枚の作品を前に感動したのも無理はない。麻薬犯がどのような経路でこの2枚の名画を入手したかはハッキリしないが、莫大(ばくだい)な金額を支払ったことは間違いない。

 彼らのイタリア内外の不動産投資はつとに知られているが、著名美術品にまで手を伸ばすとは。国際的麻薬組織の資金力がいかにすさまじいか想像できよう。

 ここで思い出すのは1969年10月、シチリアの州都パレルモの寺院から盗まれ、いまだに発見されないカラバッジョの名画である。

 当時のシチリアはマフィア勢力が全盛を誇っており、作品は彼らに盗まれたといわれていた。結局、あまりにも名高い絵画に手を焼いて処分してしまったのかもしれない。今回見つかったゴッホの作品が同じような運命をたどらなかったのは幸いであった。

坂本鉄男

(2016年10月30日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)