坂本鉄男 イタリア便り 法王の革命的布告

 カトリック教会の幾世紀も続いてきた伝統と規則をひと言で変えることができるローマ法王は現代の絶対君主ともいえる。

 去る11月20日に「慈悲」をテーマにした特別聖年の終わりを宣言した法王フランシスコは、続いて「神の慈悲が及ばないところはない」としてこれまで何世紀ものあいだ「教会からの破門」という大罪とされてきた「堕胎」つまり「人工妊娠中絶」について、「司祭に告白してざんげをすれば、女性も執刀医も許される」という革命的布告を出したのである。

 以前はカトリックが国教であったイタリアでも、1978年に「中絶法」が施行されて以来、2015年には9万7千人の女性が公立病院で中絶手術を受けている。だが、カトリックの教えの影響を受けて産婦人科医の70%が「良心による手術拒否」をしているという矛盾も生じてきた。こうした状況にある以上、法王の布告はどれほど多くのカトリック女性信者の救いになるか分からない。

 また、ポーランド出身の法王で14年に聖人に列せられたヨハネ・パウロ2世(05年没)のように避妊手段も認めなかった法王も最近までいただけに、突然、大任を与えられた一般司祭たちの動揺も大きいものと思われる。

坂本鉄男

(2016年11月27日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)