坂本鉄男 イタリア便り 相次ぐ地震などで自国の対応に精いっぱい…難民問題は「底なし沼」の様相

 エジプトやリビアの沿岸から2016年、地中海を渡ってイタリアに到着したアフリカ出身者をはじめとする難民や移民は18万人を超えた。

 人道的見地から難民を救うという欧州連合(EU)の政策は正しい。だが、イタリアは相次ぐ地震の被災者や生活困窮者を多数抱えていて、難民保護施設での対応はとても十分とはいえない。

 1月初旬にも北部ベネト州の小村(人口190人)にある1500人収容の難民収容所で、救急車の到着が遅いためアフリカ女性が死亡したと抗議する暴動が起きた。住民に対して難民が多すぎるとして、政府がほかの収容所に一部難民の受け入れを打診したところ、ほとんどが拒否した。

 幸い今までイタリアではイスラム過激派によるテロは起きていないが、警察は警戒を強めている。大勢の難民の中にテロリストが潜んでいる恐れはあるし、刑務所内の外国人約2万人の半数はイスラム教徒だ。社会に不満を抱く彼らがいつの日か、過激派の誘惑を受ける可能性はある。

 シリアでの内戦やアフリカ部族間紛争は当面、終結の見込みがないだけに、今後どれだけの難民が押し寄せて来るか分からない。問題は底なし沼の様相を呈している。

坂本鉄男

(2017年1月29日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)