坂本鉄男 イタリア便り もしも、東京で「北方領土は日本領でない」と書いたビラを貼ったら… 一旦領土失うと復帰は困難 割譲された南チロルの教訓に学ぶべき

 もしも、東京のど真ん中で「北方領土は日本領でない」と書いたビラを貼ったら、人々から「親ロシア派の外国人か」と思われるに違いない。ところが、イタリアでは、ローマ市の真ん中で赤・白・赤のオーストリア国旗の上に「南チロルはイタリア領ではない」と印刷したビラを貼ろうとした「イタリア人」の一群がいた。彼らの行為は警察当局に止められたが、その後、彼らが訴えを起こしたローマ行政裁判所は、「ビラの内容は国を著しく侮辱するものでなく、イタリア憲法にも抵触しない」と貼付許可の判断を下した。

 第一次大戦で敗戦国となったオーストリアは、サン・ジェルマン条約により、戦勝国イタリアにアルプス山脈の南北に広がるチロル地方の南側を含むアルト・アディジェ地方その他を割譲した。だが、もともとオーストリア住民であった南チロルの住民の一部は、オーストリア復帰を狙って武装テロを含むいろいろな行動をとってきた。今回の「南チロルはイタリアではない」とのビラを貼ったのもその運動の一つである。

 イタリア政府もこうした住民の懐柔策として、ドイツ語も公用語とするなど特権を与えてきたが、100年近くを経た今もオーストリア復帰運動は絶えない。一旦失った領土の復帰がいかに難しいかを学ぶ教訓でもある。

坂本鉄男

(2017年3月26日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)