坂本鉄男 イタリア便り 蒸気機関車の発明が生んだ新たな悲劇…後を絶たない鉄道自殺

東京近郊に住む友人の手紙にこうあった。「都心に行くのにJR中央線を利用するのだが、よく人身事故による遅延に出くわす。大部分が投身自殺だ。中央線は日本でも最も投身自殺が多い路線の一つらしい」と。

 イタリアでも最近鉄道自殺が多くなり、2015年には135件発生している。だが、未遂を含む発生件数が過去10年間で約6千件にも上るという日本ほどではない。

 私が外国にも鉄道自殺があるのを知ったのは中学時代、トルストイの長編小説「アンナ・カレーニナ」を読んでからだ。美しく裕福な女主人公が人生に絶望して列車に飛び込み自殺する状況を、トルストイがかなり詳しく描いているのに驚いたことを思い出す。

 「鉄道の父」スティーブンソンが蒸気機関車を製作したのが1814年。イタリアのナポリ-ポルティチ間で約7キロの路線が開通したのが1839年。新橋-横浜間での鉄道開業が1872(明治5)年。そして、1877年に「アンナ・カレーニナ」の初版が刊行された。

 こうしてみると、蒸気機関車の発明が人間に新しい自殺の方法を教えるのに、それほどの年月がかからなかったことがわかる。

 不幸を抱えて列車に飛び込む人をなんとか助けられないものか。

坂本鉄男

(2017年10月1日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)