坂本鉄男 イタリア便り 小春日和、伊では「聖者の夏」…その由来は

昔の日本人は、なんとしゃれた艶やかな表現を考え出したのだろう。「小春日和」とは、旧暦の10月の異称の「小春」から出たもので、この時期に(つまり晩秋から初冬にかけて)、気候がまるで一時的に春に似たような暖かい日が続くことをいう。この気象現象は、日本ばかりでなく世界各地で見られ、米国ではインディアン・サマーと表現されるそうだ。

 イタリアでは、この小春日和を「サン(聖)マルティーノの夏」と呼んでいる。伝説によると4世紀、貴族出身でローマ軍団の将校であったマルティーノ(のちにカトリックに改宗し聖人に列せられた)が、晩秋の氷雨が降る日に馬を進めていると、一人の物乞いが寒さに震えていた。これを見たマルティーノは、剣を抜いて自分の羽織っていた白い近衛将校用マントを2つに裂き、片方を与えたのである。

 しばらく行くと、別の物乞いが同じように寒さに震えている。彼は自分の残りのマントを与えたが、天がこの行為を見て、寒さを和らげたと伝えられている。この場面は、聖人の逸話としてよくカトリック絵画の題材に取り上げられてきた。

 彼は後年、フランスのツールの市民に請われて司教となり、布教に尽くしたといわれる。

坂本鉄男

(2017年11月12日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)