坂本鉄男 イタリア便り 離婚が禁止されていた時代の「不倫」の手口

現在のわが国には姦通罪は存在しないものの、最近の政治家はうかうか浮気をしてはいられない。雑誌社に目をつけられ不倫を暴かれると、有権者の非難を浴び辞任や落選にまで追い込まれる恐れがあるからだ。

 浮気の歴史は人類の歴史と同じくらい長い。既婚者と姦淫した罪人に対し、身動きをとれなくさせた上で投石する「石打ちの刑」の記述は、旧約聖書の中にも見られる。いくつかのイスラム教国では、現在もこの非常に残酷な刑が特に女性に対し科せられている。

 日本でも、昔は「不義」や「密通」などの名称で罰せられたものだが、女性の方が罪の重い不公平さがあった。例えば、江戸幕府の法典「公事方御定書(くじかたおさだめがき)」では当事者双方が死罪となったが、夫が妻の不倫現場を押さえた場合は、妻と相手の男を殺害しても無罪とされた。

 日本同様、イタリア、特に南伊では数十年前まで、夫が妻と間男を殺害しても「名誉を守るため」と主張すれば軽い刑で済むことがあった。この「名誉犯罪」を風刺して「イタリア式離婚狂想曲」と題する喜劇映画が作られた。カトリックが国教だった時代には制度上離婚が認められなかったため、夫がわざと妻を不倫に導き、妻と相手を殺害した上で新しい愛人と結ばれるという筋だ。

坂本鉄男

(2018年1月21日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)