坂本鉄男 イタリア便り 新年の縁起かつぎ

新年にあたって、「おせち料理」を召し上がっているご家庭も多いだろう。

 イタリアでは大みそかから元日にかけ、友人たちを招くホームパーティーの席で「レンズ豆(レンティッキエ)の煮込み」を振る舞う昔からの習慣がある。

 レンズ豆の形状が平らで丸く、硬貨に似ていることから、たくさん食べて「新年こそはお金がたくさん入りますように」と祈る。

 レンズ豆は、旧約聖書にも登場するほどの伝統的な食材だ。2016年のイタリア中部地震に襲われ、カトリック教の大聖人、聖ベネディクトの生誕地でもあるノルチャ地方に近い山地が産地として知られる。

 豚の脂身の刻んだものや生ソーセージと一緒に煮込んだだけの簡単な一皿ながら、家族や親しい人たちとレンズ豆を囲んで豊かな気持ちで新年を祝うのだ。

 日本でも、卵の数が多いことから子孫の繁栄を願って「カズノコ」、マメに働けるようにと「黒豆」、喜ぶのゴロ合わせで「昆布(こんぶ)巻き」など、新年ならではの一品も少なくなかった。

 ただ、イタリアでもこうした“縁起かつぎ”メニューは若い人に敬遠されるようになった。硬貨は山積みになっても金額は知れているということか。最近ではガッツリ食べられる肉料理が好まれる。

坂本鉄男

(2019年1月1日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)