坂本鉄男 イタリア便り 胃袋を満たす胃袋料理「トリッパ」 愛される「歯応え」

イタリアの臓物料理の代表的なものの一つはトリッパだ。牛の胃袋料理である。

 牛は上前歯がないので、長い舌で草やわらをからめ、まな板のように硬い上の歯茎と鋭い下歯で切り取った後、奥歯でかみ、胃に送り込む。“うのみ”状態にも近いため、牛の胃袋は4つの部分から成り立つ。口から飲み込んだ草などを第1胃と第2胃である程度、消化した後、もう一度口に戻しかんでから再び第1と第2の胃を経由して第3と第4の胃に送り、本格的に消化する。

 日本でもモツを専門に扱う飲食店では、第1胃をミノ、第2胃をハチノス、第3胃をセンマイ、第4胃をギヤラと呼んで区別する。

 イタリアでは、一般的には胃袋を全部一緒にゆで上げて売っている。ゆで上がった胃袋は全体的に白い。これを、もう一度家庭で柔らかにゆで直し、ある程度の大きさの細長い短冊状に切って料理する。トリッパの料理方法は簡単で、ローマ風でもフィレンツェ風でも基本的にはトマトソースで煮込んだものである。中伊のトスカーナ地方では、一番柔らかい第4胃をランプレドットと呼んで、屋台でパンに挟んで立ち食いしたものだが、今は廃れてしまった。トリッパの独特の歯応えが人々に愛される理由なのだろう。

坂本鉄男

(2018年4月15日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)