坂本鉄男 イタリア便り 日本とはどこか違う?地中海の魚

「目には青葉 山ホトトギス 初ガツオ」の季節になった。カツオは全世界の熱帯から温帯の海のどこにでも生息すると聞いていたので、イタリアで4月から8月が旬のトンネット(小さいマグロ)と呼ばれる全長50~60センチくらいの脇の上部に横じまのある魚が日本のカツオと同じものだと信じていた。

 だが、考えてみればカツオは脇の下部に横じまがあるし、トンネットはカツオに比べ魚肉が軟らかい気がする。魚類図鑑を調べたら、カツオの学名はカツオヌスうんぬん、一方、イタリアの方の学名はエウチンヌスうんぬんと違うことが判明。トンネットは、最近の日本食ブームで魚のカルパッチョが流行しても生で食べることは少なく、オーブンで焼き上げたり、トマトソースで煮たりするのが普通である。

 地中海は暖流だけが流れていて、暖流の黒潮と寒流の親潮の両方が流れている日本近海とは環境が違う。このため、取れる魚は形が似ていても味や性質がやや違うことが多い。

 例えばアジだ。見かけは日本のアジと全く同じだが、肉が薄く皮のぜいごが硬くて三枚におろすのは大仕事になる。このため、アジの酢の物、アジフライ、アジの開きなどは諦める他はない。わが家の魚屋は下等な魚として初めから仕入れてこない。

坂本鉄男

(2018年5月20日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)