坂本鉄男 イタリア便り 難航する高速鉄道

イタリアは北側国境を、フランスの地中海沿岸からスイス、オーストリアを経てスロベニアまで至る険阻なアルプス山脈に囲まれている。このため中欧からイタリアに入るには、この山脈を越えなければならない。

 紀元前では象と大軍を率いたハンニバルの「雪のアルプス越え」が有名だし、近世ではゲーテやモーツァルトたちの徒歩や馬車によるブレンネル峠越えが知られている。このため、1965年に開通した仏・伊を結ぶモンブラン・トンネルは、ヨーロッパの自動車旅行と陸上輸送にとって画期的な出来事であった。

 仏伊両政府は、20年以上前から、アルプスの下をトンネルで通り中仏リヨンと北伊トリノを結ぶ高速鉄道の建設計画を進め、欧州連合(EU)も中欧と東欧を結ぶ新大動脈として巨額な資金援助を約束している。

 この完成により、トリノ-パリ間がわずか3時間半に短縮されるほか、2030年には9千万トンに達すると推定される現在の陸上輸送も、この高速鉄道に移行される部分が大きい。

 だが、すでにフランス側は工事が進捗しているのに、イタリア側はポピュリスト(大衆迎合主義)政党「五つ星運動」の反対で1年以上も工事が停滞。同党と中道左派「民主党」の新連立政権誕生で工事が進むかどうか。

坂本鉄男

(2019年10月22日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)