坂本鉄男 イタリア便り カレンダーに潜む謎

以前、日本人として初めてローマ教皇庁の大臣クラスを務めた故浜尾文郎枢機卿に伺ったことがある。

 「昔は神学校と神学大学ではラテン語は必須科目で、教皇庁内でも知らない外国人枢機卿とはラテン語で通じ合ったものだった。今はラテン語に代わり英語ですね」と。

 つまり、十数世紀の長きにわたりキリスト教会の公式言語であったラテン語が教会内部でも重要性を失いつつあるわけだ。

 欧米語には、ラテン語およびラテン文化の影響を受けたものが多い。一例を挙げると、英語で12月を表すディッセンバーは、ラテン語ではデケムベルという。

 ラテン俗語から直接派生したイタリア語は当然ラテン語の影響を受けているのだが、9~12月にかけてのイタリア語の表記にはちょっとした謎が隠れている。

 9月=セッテンブレ、10月=オットーブレ、11月=ノベンブレ、12月=ディチェンブレというのだが、太字で強調した冒頭部は、ほぼそのまま現代イタリア語の7、8、9、10なのだ。では、なぜ9月の語の頭が7で、10月の語頭が8なのだろうか?

 これは古代ローマのカレンダーが現在の3月から始まっていたためだ。つまり現在の9月は3月から数え始めて7番目、10月は8番目の月だったというわけである。

坂本鉄男

(2019年12月11日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)