坂本鉄男 イタリア便り 中国発の2つの疫病

中国から広まった新型コロナウイルスは、14世紀にヨーロッパを襲った「ペスト」と似ている。当時のぺストも中国から感染が広まったとされるからだ。このペストは蒙古を横切りトルコ、ギリシャを経て1347年ごろイタリア南部のシチリア島に上陸し、そのままイタリアを北上してから、スペイン、英国からアイルランドまで欧州全土を襲い自然終息したといわれる。

 この疫病により、当時のヨーロッパの人口の3分の1、つまり、2千万人から3千万人が死んだとの推定がある。イタリアの古典小説の始祖の一人、ボッカチオ(1313-75)は、ペストから田舎の別荘に逃れたフィレンツェの上流階級の男性3人と女性7人によって語られる物語を「デカメロン」に書いている。

 米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、日本時間30日午前11時現在の新型コロナ感染者は約72万人、死者は約3万人。一方で、治療薬や予防接種に使うワクチンは完成していない。万一、14世紀のペストと同様、自然終息を待たねばならないとすると今後も感染者は増加の一途をたどると思われる。

 中国も、経済発展と軍拡に力を注ぐだけでなく、たとえ700年に一度としても自国発のパンデミック(世界的大流行)が起きないよう衛生状態の改善に尽くしてもらいたいものだ。

坂本鉄男

(2020年3月31日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)