坂本鉄男 イタリア便り エチケットの変化

 年末・年始の休みに外国旅行をなさる方は欧米諸国との食事マナーの違いにご注意いただきたい。

 例えば、スパゲティだが、そばのようにズルズル音を立てて食べたら周囲の顰蹙(ひんしゅく)を買う。欧米の食事のエチケットの第1条は「音を立てて食べないこと」である。また、モノを切るためナイフを使う習慣は2千年以上前からあるため、サンドイッチや立ち食いのピザ、ハンバーガーなどはともかく、食卓で「モノを口に運び歯で食いちぎって残りを皿に戻す」などは不作法中の最たるものである。

 とはいえ、最近のように日本食ブームになると箸を使う人が増え、日本食の食通ぶりを示すため、日本流に音を立ててそばを食べたり、すしを半分に食いちぎって食べたりするイタリア人も見かけるようになった。

 エチケットの変化はイタリア料理でも見られる。例えば、料理の皿に残ったおいしいソースを賞味するにはパンのかけらで皿を拭うのが一番だが、これもマナー上大反則だ。

 さすがに、超一流レストラン「ビッサーニ」では30年以上前からソースを味わえるように小さなスプーンを添えているものの、例外中の例外である。だが最近ではかなり高級なパーティーでもパンをソースに浸して食べる光景が見られるが、よい傾向というべきか。

坂本鉄男
(12月18日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)