坂本鉄男 イタリア便り 辰の年

 今年は辰の年。竜の図案の年賀状を送った方も多いだろう。だが、十二支は古来、年月の順序や方角を示すもので「辰」と「竜」とは関係がなかった。

 十二支の名前を覚えやすくするために、ほかは実在の動物の名に結びつけられたが、「辰」だけには空想的霊獣「竜」を当てざるを得なかったというわけだ。

 竜は東西の神話に出てくる。角が生えた頭部、火炎を噴き出す裂けた口、首と胴は硬いうろこに覆われた蛇、鋭い爪を持つ4本の足、背中には空中を自在に駆け回る強い翼を持つ。

 ヨーロッパの神話や伝説の中の竜は、人間に敵対する悪の権化で破壊的な力を持つ悪い怪物であった。

 キリスト教の伝説では「竜を退治した聖ジョルジョ(英語のジョージ、フランス語のジョルジュ)」の雄姿は名高く、ルネサンスの画家の題材に好まれたばかりか、ロシアのモスクワ市の市旗や市章にもなっている。

 さて、東洋では霊獣や神獣として尊ばれ、日本でも日光の東照宮などの装飾に彫られ、日本画家の襖絵(ふすまえ)などの画題にも好まれた。また、「コイは滝を登ると竜になる」との中国の故事から「登竜門」のめでたい言葉もある。

 読者諸兄が今年、コイになって滝を登り竜になられますように。

坂本鉄男
(1月1日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)