坂本鉄男 イタリア便り 「ツナミ」の定着

 イタリア語で「津波」は、「地震」をテッレモート(「地」+「動き」の合成語)と呼ぶように、古来、マレモート(「海」+「動き」=海震)と呼ばれてきた。

 ところが、近年、世界の地震学者が日本語の「津波」を使うようになり、イタリア社会でも「ツナミ」の表現が定着した。

 昨年3月11日、東日本の沿岸を襲った被害も、「ツナミ」として大きく報道され、義援金募集も「ツナミ」犠牲者のためとして展開された。

 日本でもイタリアは火山国、地震国と教えられているように、イタリアは地震の多い国。しかし、海底地震はほとんどないため、大津波の例はごく少ない。

 津波の記録となると、シチリア島東海岸のメッシナ海峡沿岸に限定されるといっても過言ではない。ギリシャ神話の時代から今日まで広く知られてきた欧州最大の活火山、エトナ山がすぐそばにそびえ立ち、これに連結する地震帯が海峡一帯に広がるためである。

 この地方では1600年代末と1700年代末に被害の記録は残るが、近年もっとも大きな被害をもたらしたのは、1908年12月のメッシナ大地震だ。

 メッシナ市は大地震と、場所によっては10メートルを超したといわれる大津波に襲われ、数多くの犠牲者を出したのである。

坂本鉄男
(3月11日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)