坂本鉄男 イタリア便り 国益か地域のエゴか

 1978年に開港した成田国際空港の建設をめぐり、建設に反対する一部農民とそれを扇動する新左翼過激派の阻止運動は、工事の大幅な遅延と莫大(ばくだい)な経済的損害をもたらした。

 現在、北イタリアのトリノとフランスのリヨンを結ぶ270キロの新高速鉄道建設で、アルプス山脈の下を通るトンネルのイタリア側の試掘工事をめぐり地元のスーザ渓谷で同じような事態が起こっている。

 この高速鉄道は、将来リスボンからキエフまでを結ぶ欧州横断大高速鉄道の一部をなす重要なものだ。開通すれば、ミラノ-パリ間の所要時間が現在の7時間から4時間に短縮する。

 欧州連合(EU)もこの新路線がEU統合を強化するものと重視し、総工費の40%を負担することを決め、すでにフランス側では工事を始めている。これに反し、イタリア側では一部町村がいろいろな理由を挙げて反対し、これを応援するイタリア各地から集まった過激派と一緒になって、道路を封鎖したり工事現場を占拠したりして警官隊との衝突を繰り返している。

 イタリア政府は国際的な約束を果たすため反対派町村を説得するが聞く耳を持たない。「多数決の原理」と「少数意見の尊重」を同時に重んじる民主主義が、往々にして社会全体の発展を止めてしまう一例である。

坂本鉄男
(3月18日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)