坂本鉄男 イタリア便り バチカン市国薬局

 バチカン市国内でサン・ピエトロ大聖堂やバチカン博物館以外にも一般人が入れる一角がある。ローマ法王庁直轄の「バチカン薬局」だ。もちろん、医師の処方箋とパスポートなど身分証明書は持参せねばならない。

 法王庁の通用門のサンタ・アンナ門を入り、スイス人衛兵に理由を説明し、門衛所で身分証明書と医者の処方箋を提示すると、身分証明書と引き換えに通行許可証をくれる。

 1874年に開設された(もっとも当時は別の場所であったが)バチカン市国薬局は、1日平均2千人以上の客があるだけに、受付窓口がたくさんあり大勢の薬剤師が働いている。だが、いつも混雑し1時間ぐらいの順番待ちは普通。この薬局では、当然のことながら避妊用具や避妊薬などカトリックのモラルに反するものや、社会的に問題視される麻薬などは販売していない。

 処方箋をもってわざわざここを訪れるイタリア人の目的は、イタリア国内では販売が許可されていない外国製の薬品を購入するためだ。ちなみに一番需要があるのは、日本では市販されているがイタリアでは市販されていないスイス製の痔(じ)の治療用舌下錠「ヘモリンド」。痔に悩む人は、3人に1人といわれる日本人ばかりでなくイタリア人にも多いわけだ。

坂本鉄男
(6月10日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)