坂本鉄男 イタリア便り 盗聴の“収支”

 普通の捜査では到底解明できないマフィア組織の捜査を主目的として、イタリアでは検察官が判事の許可を得れば、犯罪容疑者の電話を盗聴することができる。だが、この盗聴がマフィア以外の捜査にも広く使われ、こともあろうに盗聴内容が報道関係者に漏れるから問題だ。例えば、ベルルスコーニ前首相の未成年女子買春容疑事件も、関係者への盗聴が証拠にあげられている。

 最近、「マフィアと国家との関係」を捜査している南部シチリア州の州都パレルモの検察当局が、ナポリターノ大統領と元内相の電話による会話を盗聴し、しかも、その内容と称するものが有力週刊誌に発表されたから大変だ。

 国家元首である大統領が怒るのは当然だが、現在の法律では違法ではないらしい。また、盗聴内容の漏洩(ろうえい)も「報道の自由」に守られ、現行法ではスクープした報道関係者が罰せられることもないようだ。

 盗聴には大変な費用がかかり、2009年度の1年だけで2億7000万ユーロ(現在の為替レートで約270億円)の巨額な出費だったという。

 だが一方で、盗聴の結果、マフィアから没収した財産は09年と翌年の2年間で40億ユーロに上り、経費は十分取り戻しているという意見もある。

坂本鉄男
(9月16日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)