坂本鉄男 イタリア便り 歴史の玉手箱

 バチカンのローマ法王庁機密文書館には、欧州を中心とする世界の歴史そのものが収まっている、といっても過言ではない。1612年にボルゲーゼ家出身の法王パウロ5世が、それまでの古文書を含む公文書保管のため創設したものだ。

 天井まで設けられた書棚全部を横に並べると、85キロに及ぶという広大な文書館だ。当初は枢機卿しか入れなかったが、1881年からは外部の学者や研究者にも閲覧が許されている。

 今年は文書館開設400年に当たることから、去る2月末から9月9日まで、所蔵文書のうち一般人にも興味ある約100点がローマのカピトリーノ美術館で展示された。

 たとえば、1521年1月3日付のレオ10世の宗教改革創始者マルティン・ルターに対する破門宣告状。英国王ヘンリー8世の離婚を認めるよう英国貴族院議員が法王クレメンス7世に出した1530年7月13日付の要請状もあった。

 1633年にガリレオが地動説の誤りを認めて署名させられた裁判記録や、1793年初めに書いたとされるマリー・アントワネットの獄中からの手紙。さらには、1939年6月7日付の昭和天皇からのピウス12世の法王即位祝賀状など、貴重な文書が目白押し。まさに、「歴史の宝庫」の名に恥じない壮観さだった。

坂本鉄男
(9月23日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)