坂本鉄男 イタリア便り 日本の伝統料理?

 ローマでは20年くらい前までは安い中華料理店が至る所で繁盛していたが、イタリア人が安価な中華に飽き、同時に世界的な「日本食ブーム」が到来すると、ほとんどの店が争って日本料理店にのれん替えした。

 コックに浴衣まがいの衣装を着せれば、イタリア人には中国人か日本人か見分けは付かない。客の多くはすしや刺し身の格好さえしていれば魚の鮮度や味の良しあしの区別がつかない。この結果、現在では、日本人の板前やすし職人を抱える店10軒足らずに対し、中国人やイタリア人が調理する自称日本料理店は50軒以上を数える。

 競争が激化すると客寄せに変わったことを考えるのはいつの世も同じ。去る7月、やや場末に近い場所にある自称日本料理店が「イタリア初の日本の伝統的女体盛りすし」の宣伝を始め、早速、ある全国紙が飛びついて報道した。

 日本人の大部分が知らない「女体盛り」とは昔、わが国の一部の物好きが考えたとされる裸の女性の体に料理を盛りつけるものだ。この店では、女性モデル料約2万円、すし1人前約5千円で予約と出前を受け付けるという。こんなゲテものに目くじらを立てる必要はないが、心配なのは衛生状態だ。衛生的でない自称日本料理で食中毒が出たら、本物のすしや刺し身まで危険視されてしまう。

坂本鉄男
(9月30日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)