坂本鉄男 イタリア便り いたちごっこ

 2002年1月1日から導入されたユーロの紙幣と硬貨は、今やユーロ圏17カ国の3億3300万人が日常生活で用いている。だが、偽札は導入とほぼ同時に現れ、これまでに発見された偽札の枚数は550万枚、額面金額では3億ユーロ(約300億円)に上るといわれている。これも一部に過ぎず、実際にはこの4倍から5倍が流通していると推測されている。
 最も偽札が多いのは、流通量が2番目に多い二十ユーロ紙幣で全体の42%を占め、次いで五十ユーロ紙幣が35%を占めるという。高額紙幣の部類に入る百ユーロ紙幣になると、人々が注意を払うため偽札造りも手控えるのか、11%にとどまるという。
 EU圏の偽札の約半数はイタリア南部のナポリ近郊で印刷されているとみられ、ナポリ偽造団の二十ユーロ紙幣は「最高の出来だ」といわれてきた。だが最近、ブルガリアで本物と見分けのつかない偽二百ユーロ紙幣が発見され、EU中央銀行筋は警戒を強めていた。
 捜査当局の手に負えないのであれば、偽札を退治するには新しい紙幣を発行するほかはない。このため、欧州中央銀行(ECB)は近く、偽造困難なすかし絵入り新紙幣の印刷に着手し、13年には新しい札が流通し始める見通しだという。偽造団も腕まくりして待ち構えているに違いない。
坂本鉄男
(11月11日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)