坂本鉄男 イタリア便り 「聖人」は一日にして…

 聖人になるのがいかに難しいかを知っているカトリック教徒は、軽々しく「彼は聖人のように品行方正だ」などと言わない。聖人となるためには、バチカン市国の列聖省による厳密な審査を経なければならない。審査開始時の「神の僕(しもべ)」に始まり「尊者」、「福者」と段階を経て、必要要件の奇跡の真偽などの審査を通過し、やっと「聖人」にたどり着く。

 例えば、慶長元年12月(1597年2月)、豊臣秀吉の命により長崎で殉教した26人のカトリック信者が聖人に列せられたのは、300年近くたった1862年のことである。

 だが、最近は、聖人が乱造気味のような気がしないでもない。あす9月30日から開催される枢機卿会議で、近々中に、カトリック教会の近代化に重要な役割を果たした第2バチカン公会議を開いたヨハネ23世(在位1958~63年)と、東欧共産主義圏の崩壊に精神的支援を与えたばかりか、世界129カ国への布教旅行という大記録を打ち立てたポーランド出身の前々代法王ヨハネ・パウロ2世(在位1978~2005年)の2人の元法王が同時に聖人に列せられることになる。

 ちなみに、ヨハネ・パウロ2世は在位中に482人もの聖人を誕生させた新記録の持ち主でもあった。

坂本鉄男
(9月29日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)