坂本鉄男 イタリア便り 13カ月目の給与

 イタリアでは、年末のボーナスのことを「13カ月目の月給」、略して「13月目」と呼ぶ。字のごとく月給1カ月分が基本で、法律で支給が義務付けられている。もちろん、景気の良い会社は数カ月分のボーナスを出す。

 毎年12月15日前後には、全ての官公庁や会社はもちろん、年金受給者も1カ月分を余分に支給される。年末にいつもより支出が増えるのは年金生活者も同じだからだ。給料をもらっていたときには、年末の13カ月目から余計に税金と年金積立金を天引きされていたのだから、「当たり前」の話でもある。

 このため、イタリア人が日本の年金機構が13カ月目を支給しないと聞くと、「信じがたい。なぜ政府に文句を言わないのだ」とびっくり仰天してしまう。

 13カ月目の歴史は長く、戦後の住宅難のときには、当時の労働相が13カ月目の月給の一部を天引きし、住宅資金として強制的に蓄えさせる法案を考えたこともある。また、財政危機が訪れる度、13カ月目の年金支給を中止か減額する案が出されてきたが、そのつど引っ込められてきた。

 今年は景気にテコ入れするため13カ月目を非課税にする案が出たが、大財政難の政府にそれだけの余裕があるはずもなく、はかない夢に終わった。

坂本鉄男>
(12月15日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)