坂本鉄男 イタリア便り 盗難100万点を捜索せよ

 8月初旬の本紙に、「13年前に東京で盗まれたルノワールの油絵が、今年の2月に英国の有名なオークションに出品され落札されていた」との記事が出ていた。

 これに関して言えば、イタリアは昔から美術品泥棒にとって宝の山である。国防省所属の警察軍には美術品特別捜査班があり、捜査官たちは盗難品の捜査や国外に不正に流出した美術品の回収、偽物の摘発や古代の美術品の盗掘摘発などに活躍している。

 にもかかわらず、未発見の盗難品は有名・無名の作品を合わせ100万点に上るというからすさまじい。

 過去約50年に遡(さかのぼ)り、未回収の国際的名画だけを例に挙げても、1969年にパレルモの寺院から盗まれたカラバッジョの名画▽90年にペルージャの個人宅で盗まれたピントゥリッキオの小品▽93年にベネチアの教会から盗まれたベッリーニの絵画▽97年に北部ピアチェンツァの美術館から盗まれたクリムトの作品などがある。

 国際的に有名な美術品の盗品は、簡単に売却できるものではない。だが、さきに挙げたルノワールの事件が示す通り、資金力のある国際的故買組織の手に渡れば、時間をかけて処分されてしまうのだ。捜査官の仕事がいかに大変か想像に難くない。

坂本鉄男

(12月8日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)