坂本鉄男 イタリア便り 秋の味覚の危機

 栗の季節の真っ最中である。ローマの街角で焼き栗屋の芳しい香りに釣られ、法外な値段にもかかわらず、旅の思い出にと、つい買ってしまう観光客が多い季節でもある。

 イタリアは北から南まで海抜500~1000メートルの山林78万ヘクタールが栗の木で覆われている。昔から農民は、実は自分たちの食料および現金収入源として、幹は家具・農具の材料に、枝は燃料に、葉は堆肥に、イガからは皮なめし用のタンニンを採取するなど栗の恩恵を存分に受けてきた。

 そればかりでない。栗の花から集められる特別な香りと色を持つ蜂蜜も、愛好者が多い。

 イタリアは、かつては欧州一の栗の生産国で、日本も菓子材料として、かなりの量の干し栗や栗の粉を輸入してきた。

 ところが、10年ほど前に中国から輸入した苗木に付着していた害虫が瞬く間に全国に広がり、1911年には82万9千トンの記録を誇ったイタリア栗の生産が、昨年はわずか1万8千トンという状態となった。今年のイタリアは、栗の輸入国に成り下がると予想されている。

 外国から入ってくる害虫の怖さと植物検疫の重要さを改めて痛感するとともに、今後のイタリア製マロングラッセなどの味が心配になる。

坂本鉄男
(12月1日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)