坂本鉄男 イタリア便り 10年に1度の「お仕事」

昨年12月初旬、イタリア北部トリノ市近くのある町で、偽札作りの一味が逮捕された。数カ月前からこの地域で偽五十ユーロ札が出回っていたことから捜査していた警察が、偽造団の本拠地を急襲。段ボール箱173個に詰め込まれた160万枚の偽五十ユーロ札を押収し、一味5人を逮捕した。

偽札の多いイタリアでも、これだけの量が一度に押収されたことはない。しかも、上手に透かしも入っていて、熟練した銀行員でも一見して分からないほど精巧なものだったという。

イタリアの銀行では窓口でも現金自動預払機でも、支払いに最も多く使われる紙幣は五十ユーロ札である。つまり、市中で一番流通している紙幣が五十ユーロ札であるため、万が一、この偽札全てが出回っていたら、8千万ユーロ(約113億円)分の偽札が人々の財布に紛れ込むことになったと推定される。

それにしても、警察はどうやってこの一味を突き止めたのだろうか。偽札作りの犯罪歴のある人物を洗い出し、10年ごとにこの犯罪に手を染める「エブリ・テン」というあだ名の男を逮捕したところ、ズバリ犯人だったという。

彼は実際に2003年にも偽札作りで逮捕されていた。犯人の奇妙な習癖が墓穴を掘ったわけである。

坂本鉄男

(1月19日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)