坂本鉄男 イタリア便り ボーイの道

 観光国イタリアには全国にホテル学校が大小260校もあり、観光業界を志す若者を育成するためのコックやボーイの養成コースなどがある。

 最近の新聞によると、就職難が深刻な昨今は手っ取り早く稼げるとの考えからか、コック科への入学者ばかりが増えてボーイ科の方は減少しているという。

 レストランで、注文しようと思う料理について質問しても答えられないボーイや、皿の端に指を突っ込んで運んでくるボーイに出会うと、「このレストランには二度と来るまい」と思うのは私ばかりではあるまい。

 日本でこのようなボーイを見かけるのは、ボーイ業とは何たるかが確立されてこなかったためである。イタリアのちゃんとしたレストランでは、このようなことはあり得ない。

 ボーイ長はもちろん、普通のボーイでも、料理を注文する客と料理を作るコックとの間を取り持つ大切な役割を担っている、という自覚を持っている。だからこそ、楽しく食事を済ませたときには、お礼の気持ちを込めてチップを置いてくるのだ。

 イタリアで料理について知識のないボーイが出現する日がきたら、それこそ「レストランの終焉(しゅうえん)の日」だと考えている。

坂本鉄男

(2014年2月2日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)