坂本鉄男 イタリア便り ハトと知恵比べ

 「お宅には幼い子供がいないのに、なぜ風車があるの?」

 部屋の外のテラスの手すりの上で、いきおいよく回る5色の羽根の風車を見て、友人が尋ねた。「あれは、人に勧められてハトよけに付けたのが、全く驚く様子がないので、そのままに放ってあるのさ」

 わが家は長年、ハトに悩まされている。初めはテラスの上部に取り付けたエアコンの室外機の上に巣を作られた。金物屋と相談した揚げ句、室外機の上に金属製のとげを植えた板を置いたが、ハトは壁と金物板の隙間に潜り込み、何回も板を落としてしまった。忍耐比べの末、やっと人間が勝ったが、今度は早朝にやってきて、テラスに糞(ふん)をまき散らす。明け方の暗いうちに来るらしいから、ローマのハトは「鳥目」ではないのかもしれない。

 またもや金物屋に相談したが、「方々の家庭で同じ悩みを抱えているのですよ」と慰められた末、華道で使う剣山のお化けのようなとげを植えた金物をいくつか渡された。だが、歩くのに危なくて困る。

 「ハトは平和の使者」などと言った人は、ローマに住んだことがなかったに違いない。風車は色がはげてきたのと、強い北風のせいで羽根が壊れたのとで、「負けるが勝ち」と自分に言い聞かせて捨てることにした。

坂本鉄男

(2014年2月9日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)