坂本鉄男 イタリア便り やっぱり温泉が好き

日本には、昔から「湯治」という言葉がある。鉱泉を飲むよりは温泉につかる療法が一般的だ。イタリアでも各地に鉱泉や温泉の療養地が存在するが、今回は中部イタリアの主なものを紹介したい。

「飲む鉱泉」では、フィレンツェから西に50キロほどのモンテカティーニ町が胃腸の療養地として名高い。ローマから約80キロの町ヒュッジも、ミケランジェロが愛飲したという胆石などの結石治療に効く鉱泉地として有名だ。

どこの鉱泉治療地も、町の真ん中に、ホテルに囲まれた緑豊かな広大な公園がある。療養客はホテルに泊まって公園に通い、入場料を払って公園内の鉱泉飲み場で鉱泉を飲む。鉱泉治療は最低1週間から2週間続けて飲むのが原則で、どうしても長期滞在になる。

一方の「つかる温泉」の方だが、飲む方の鉱泉と比べ利用客は少ない。近年、サトゥルニア、サンカシアーノ、バーニョビニョーニなど人里離れた温泉地に、治療というよりは休養が目的の五つ星高級ホテルが建てられてきた。

こうしたホテルには、屋外温泉プールや屋内の各種入浴施設が整っているが、日本の温泉旅館と同じように2、3泊の短期滞在客が多い。値段も日本の高級ホテル並みである。

坂本鉄男

(2014年2月16日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)