坂本鉄男 イタリア便り DNAでは解けない事件

2010年11月のある日の夕方、イタリア北部ベルガモ市近郊の小さな町で、体育館から帰宅する途中だった13歳の少女が行方不明となり、翌年2月に近くの野原で死体で発見された。

衣類から採取された容疑者のものとみられる血液のDNA鑑定のさい、町中の男性が血液を提供して協力した結果、ある兄弟のDNAが酷似していた。

だが、兄弟には完全なアリバイがあった。そして、DNAが似ていたであろう兄弟の父親も、1999年に61歳で死亡していた。

結局、警察はこのような仮説を立て、捜査を開始した。「バスの運転手だった父親には兄弟以外に男の隠し子がいて、それが犯人だ」と推測したのだ。

だが、15年前に死んだ父親の、いるかどうかも分からない浮気の相手と、2人の間で生まれたと想像される子供など見つけることができるのだろうか。

警察には父親が85年頃、当時17歳の少女と関係を持ち、妊娠させたという未確認情報が寄せられた。警察はこの女性を何とか突き止めたが、噂話にすぎないことが分かり、捜査は振り出しに戻った。

精度が高まるDNA鑑定を重視する気持ちは分かる。でも、昔ながらの目撃者捜しなど地道な捜査だって重要だ。悲劇の再発を防ぐためにも逮捕に全力を挙げてほしい。

坂本鉄男

(2014年6月8日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)