坂本鉄男 イタリア便り 文化財より宝船

豪華客船によるクルージングが世界的に流行するなか、船会社は利益率を上げるため、大きな客船を次々と投入している。

例えば、2012年1月にトスカーナ沖で座礁し、転覆したコスタ・コンコルディアは11万2千トンで、長さが290メートル、幅が36メートル、高さは10階建てのビル並みの見上げるような巨大な豪華客船であった。

さて、ベネチアはこれら豪華クルージングの主要寄港地の一つだが、狭いベネチアの潟(かた)の中でサン・マルコ広場の2倍の長さもある巨船が事故を起こせば、世界的な文化財に甚大な損害を及ぼす。このため環境保護団体の働きかけもあり、ベネチア当局は今年11月以降、9万6千トン以上の大型客船によるサン・マルコ運河やジュデッカ運河など中心部の航行を禁止する条例を決めた。

だが、巨大豪華客船は1隻で、小さな町の総人口に匹敵する3千人以上のお金持ちの観光客を運んでくる「宝船」でもある。このお金持ち観光客がもたらす経済効果は、年間数千億円規模とも推定されるだけに、港湾関係者や観光業界はこの禁止令に反対し、撤回を求めて行政裁判所に提訴した。

その結果、裁判所はこのほど、根拠が不十分だとして禁止令の停止を決めた。「この世は金次第」とはこのことか。

坂本鉄男

(2014年6月15日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)