坂本鉄男 イタリア便り 人の不況は犬の幸せ

イタリア人は、大不況といわれているにもかかわらず、夏休みに海や山に行くことは欠かせない義務とでも思っているようだ。

実際、わが家の周辺の商店はほとんどが8月初めから下旬まで店を閉めていた。スーパーマーケットや行きつけの肉屋、食料品店では、店員らが交代で休みを取っているので不自由はなかった。

だが、今夏のように8月中涼しくてクーラーを入れた日が少ない夏には、海や山に行った人は寒さで震えているのではないかと気の毒になる。ただし不況の影響で家で夏休みを過ごす人も多いらしく、思わぬところで良い影響も出た。

毎年、行楽に行くのに飼い犬が邪魔になり高速道路のパーキングエリアなどに飼い主が犬を捨てていくという事態が起きているのだが、今年の8月15日の祝日は、捨て犬の数が42匹と昨年の86匹から大きく減った。動物愛護の精神が向上したためとは考え難い。

このほか、犬にとっての朗報は、レストランで残した料理を、飼い犬のための持ち帰り袋に入れることを拒否した店主が客と争っていた裁判で、先月、最高裁判所で敗訴したことだ。

これで愛犬家は堂々と、大きなフィレンツェ式ビーフステーキの残った骨と脂身を、持ち帰ることができることになった。

坂本鉄男

(2014年8月31日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)