坂本鉄男 イタリア便り 消えゆく門番

イタリア語ではマンションの「門番」のことを「ポルティエーレ」という。まさに「門(ポルタ)」の番人を意味する。サッカーのゴールキーパーもホテルのレセプション係も同じようにポルティエーレである。

さて、イタリアのある程度の規模のマンションには、住民組合が雇う門番が必ずいたものだ。わがマンションの門番の場合、狭いとはいえ光熱費無料で建物の地階に2DKの住居を与えられている。

朝は7時から階段やエレベーターなどを掃除し、9時半に門を開き、あとは玄関ホールの門番用デスクで監視カメラを眺め新聞や雑誌を読んでいる。昼過ぎに門を閉めて自宅に戻り、午後は3時半に再び門を開いて閉門する7時までデスクに座っていればよい。

月給は円換算で約15万円と少ないが、社会保険と退職金積み立ては雇用者側の負担だし、電器の修理など手間賃を払って頼まれる仕事も多い。ちなみに、彼の奥さんは広告会社に勤務している。日曜・祭日の休暇はもちろんのこと、夏休みは1カ月の有給休暇がもらえ、今年も7月に早々と休暇を取っていた。

門番は訪問客の案内や新聞や郵便の受け取りなどに非常に便利なのだが、経費がかかるため、わが家の近所では門番がいるマンションは10軒に1軒ほどの割合に減少した。

坂本鉄男

(2014年8月24日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)