坂本鉄男 イタリア便り 犬は男性の強い味方

犬ほど人間の役に立ってきた動物はない。昔はトスカーナ州南部マレンマ地方の羊飼いにとって、真っ白なマレンマ犬はかけがえのない存在だった。オオカミから羊を守り、何十頭、何百頭の羊の群れを監視し、まとめて牧舎に連れて帰る牧羊犬だ。

だが、今回話題になる2匹の犬は、同じマレンマ地方でも、その中心都市グロッセート市の陸軍獣医センター所属のメスのシェパードである。同センターは軍馬や麻薬捜査犬などの訓練を主としているが、この2匹は特別な嗅覚の持ち主として研究対象になっているという。

2匹は、異なる男性の尿をしみ込ませた綿の入った幾つもの容器から、前立腺がん患者のものが入っている容器を、驚くほどの正確さで嗅ぎ当てるというのだ。それも、ごく初期のがん患者のものでも問題ないという。

実験結果は、米紙ニューヨーク・タイムズや科学雑誌にも掲載されているらしい。また、ミラノの研究機関の専門家は「特別に訓練されたこの犬が前立腺がんを嗅ぎ分ける能力は98%の的中率で、現在の検査方法として一般に使われているPSA検査を上回る」とも語っている。

男性の前立腺がん罹患(りかん)率が高くなっている現在、ワンとも力強い味方ではないか。

坂本鉄男

(2014年12月14日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)