坂本鉄男 イタリア便り オペラ「天国と自業自得」

いよいよオペラのシーズンが始まった。先頃、労働組合の横暴に愛想を尽かした大指揮者ムーティに去られたローマオペラ座の経営陣は、シーズン開幕前に左翼組合の強硬分子が多いオーケストラ団員やコーラス団員ら180人の大量解雇を含めたオペラ座再建案を示し、必要とあらばオペラ座自体の解散も辞さないとの強硬な態度に出た。

これには、さすがの組合側も驚いて経営者側との話し合いに応じ、数々の手当の撤廃と上演回数の増加などに同意した。この結果、来季のオペラの上演回数は今年度の51回から71回となり収入増加につながる。

オペラ座はこれまで組合の言いなりになってきた。オーケストラ団員は、フロックコート着用のときは「フロック手当」、野外演奏の時は「(楽器にたいする)湿気手当」、オペラ以外の演奏には「シンフォニー手当」を受給。コーラス団員も、イタリア語以外の外国語で歌うときには「外国語手当」、舞台上でやりなどを持つと「武器手当」など常識では考えられないような手当を受けてきた。

現在、レンツィ首相は、労働組合側の大反対に動ぜず、これまでタブーだった「労働者の解雇」をスムーズにできる法案を出している。今回のオペラ座騒動を眺めていると、この法案の重要性がよく分かる。

坂本鉄男

(2014年12月7日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)